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April 22, 2005

誰かが聞きたい言葉(アトランティスとオーパーツ)

アトランティスは戦いを禁じられた理想国家 
(解説「アトランティスは軍事独裁国家ですが?」)

 今日は学校の日。「ファンタジー概論」最終日。先々週の「世界ふしぎ発見」のオーパーツ特集と失われた大陸伝説を見せながら、「トンデモ仮説というファンタジー:誰かが聴きたい言葉」という話をする。
 オーパーツとか、失われた超古代文明とか、ピリ・レイスの地図とかに対して、「たががはずれた状態」の発生の原理と、それをゆがめていく「誰かが聞きたい言葉」の存在を説明する。詳しくは前の「実感の力」も参照のこと。

 冒頭のやりとりは、VTRへの私の突っ込みである。
 地中海のマルタ島をアトランティスの候補として上げるのはまあ、巨石文明だからいいでしょう。しかし、マルタ島遺跡に壁の無いことをアトランティスの証拠と言い張り、アトランティスは平和国家の理想郷だと言い出すのですが、以前、「宿敵アトランティス」で紹介した通り、アトランティスは、アテネを征服しようとした軍事国家です。
 どこから、その台詞が出てきたのかなあ?
 たぶん、「ニューアトランティス」あたりで、幻想のアトランティスが夢の理想郷扱いされたからでしょう。
 確かに、プラトンも社会制度が整った、優れた国だと言ってますが、話の流れから言えば、ギリシアを征服しようとした軍事国家です。
 このあたりの流れは、プラトン時代のギリシアが、ペルシア帝国による征服と戦っていたのと通じる状況で、ここに、思想家プラトンがアトランティス物語を始めた本当の理由がある訳なのですが、超古代文明伝説では、その当時の国際事情はすぱっと無視されがちで、キャッチーな物語のポイントが注目されてしまうのです。

 さらに、よく「アトランティス大陸は一夜のうちに海中に没し・・・」と引用されるが、これも一部の状況だけが強調された要約である。
 プラトンの原典では、まず、アトランティスがギリシアの征服を試み、アテネがギリシア軍を率いて反抗、その征服を未然に防いだが、その後、異常な大地震と洪水が度重なって起こった時、アテネ軍は、一昼夜の間に大地に飲み込まれ、同時に、アトランティス島も海中に没したとある。同じように見えるが、一夜にして壊滅したのはアテネ軍であって、アトランティスが一夜にして沈んだわけではない。
 主語が違うのである。
 こういう読み替えが起こるのはどうしてか・・・というと、「大陸が一夜にして沈んだほうが面白いから」である。その場の面白さ優先で、解釈が変わっていくのである。

 この話はオーパーツの話ではさらに加速する。
 オーパーツとはアウト・オブ・プレイス・アーティファクトの略で、考古学的に言えば、適切でない地層から発見された工芸品という意味である。
 以前、J-waveのインタビューに対して、エジプト考古学の吉村作治教授が「1年で1ミリ」と言っていました。凄い大雑把な言い方ですが、1ミリ掘れば、1年前というのが地層と年代の基本だそうで、1000ミリ、つまり1メートル掘れば1000年前です。2メートル掘れば2000年前、キリストの時代ですよ。エジプト第一王朝はBC28世紀だから、4800年前、4.8メートルだ。最終氷河期が1万2000年前に終わったと言っても12メートル掘ればその地層に達する。
 ところが、1メートルなんて、実は簡単に掘れる。Kill Bill2でブライドが埋められたのは1メートルほど。あのまま死んで1000年後に発掘されたら、本来の地層とは1000年ずれるわけですよ。
 まあ、あの女性は別な意味でオーパーツと言っても過言ではないだろうねえ。いや、映画自体が。
 閑話休題。
 ちょっと掘って、古い地層に、最近の時代のものを埋めたら、オーパーツな訳ですね。
 例えば、3000年前の地層からアルミのネジが出土したら、考古学的には誰かが穴掘っているうちに、間違ってネジを埋めてしまったのだろうから、考古学調査から除外したほうがよかろうと言って、よこに除ける訳です。
 これがオーパーツの原意ですが、エンターテイメントとしてはそこにもっとドラマ性が欲しいわけで、「これは超古代に地球を訪れた宇宙人が落としていったに違いない」とか面白いネタを妄想する。そのうち、超電子パワーとか言い出す。
 これが「聞きたい言葉」です。
 分かりやすく、なおかつ、一見、耳に心地よい解釈。
 そういうところに、誤解や錯覚、そして、幻想そのものが新たに生まれる力が隠れているんだよと。

 授業的には、そのまま続く「企画発想」になだれ込み、妄想力と商品企画のブレイクスルーへとつながります。まあ、妄想の商品化の事例として挙げられるのが「LAND WALKER」と「萌えるるぶ」であるあたりに色々問題は感じますが、「萌え単」の商品力は否定できませんよ。

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