クトゥルフ・ジャパネスク
もうすぐ邪神ダゴン様がお目覚めになられる。
『真・女神転生X』製作中の朱鷺田です。
さて、今夜はクトゥルフ神話とメガテンの話。
「クトゥルフ神話ガイドブック」の時にはさらりと流してしまいましたが、『真・女神転生』にもクトゥルフ神話は多くの影響を与えています。Ⅰには魔王ダゴンが、Ⅱには、邪神クトゥルーとニャルルラトホテップ、外道オールドワンが出てきます。Ⅰのダゴンはペリシテの邪神というノリですが、Ⅱは明らかにクトゥルフ神話です。エルダーシングズに見えなくもないオールドワンが外道なのは、少々かわいそうですが、クトゥルーとニャル様はまあ、妥当な外見かと。
あくまでも、非神話作品に、モンスターバリエーションとして加えられたものなので、扱いはまあ、押して知るべき範囲ですが、私の仕事の場合、これをまたTRPGで使えるだけのネタに調整するという作業があります。「クトゥルフ神話TRPG」はすでに他で出ておりますので、実際の「宇宙的な恐怖」はそちらで再現していただくことにして、TRPGのシナリオにしやすい仕掛けを用意することにしました。
ニャル様は、PCとコンタクトをもてるNPCに加え、魔都東京で暗躍してもらうことにします。エジプトからやってきた謎の司祭「ナイア神父」です。お約束どおり《星の智慧》教会で。
ダゴンは、古代日本の海洋神アズミと縁があったということで、瀬戸内海からやってきた安曇族の巫女がダゴンとクトゥルーの目覚めを予言するという設定を考えています。
さて、ここで一つの問題があります。
『真・女神転生』Ⅰ・Ⅱの時代には「ロウ(秩序)」と「カオス(混沌)」の対立が、基本構造となっています。Ⅰの序盤では、太平洋戦争とその後の日米関係、日米経済摩擦などを含む形で、アメリカ合衆国がロウ・サイドで、日本がカオス・サイドに配置され、対立します。アメリカの覇権に抵抗する形で、ターミナル開発を行った五島陸将はアジアの神々を復活させ、日本からアメリカの影響排除を求め、クーデターを起こします。地上には悪魔が復活、それに対して、アメリカ合衆国は核攻撃を持って対処します。
ロウ・サイドにはキリスト教過激派にも見えるメシア教会、カオス・サイドには日本やアジアの神々を信奉するガイア教団が配置されています。
さて、この図式の中、クトゥルフ神話の神格はどこに位置するべきでしょうか?
私は、クトゥルフ神話というのは、キリスト教社会だからこそ生まれたものであると考えています。これはクトゥルフ神話がキリスト教的であるという意味ではありません。
ラヴクラフトは、商業化され、マンネリ化したパルプ・ホラーに反旗を翻す形で、宇宙的な恐怖を生み出します。そこでは、キリスト教白人社会のアイデンティティを脅かす「異形の神話」が描かれます。「インスマウスの影」はその典型で、奇怪な土俗宗教に犯された異形の町が描かれ、そして、アメリカ政府というアメリカ的な正義によって事件は解決されますが、主人公は己の体に流れる「忌まわしい血」に支配され、「白いアメリカ」から解放され、海底に向かいます。
この時、インディアンの血とか、ジプシーの呪いなど「非キリスト教的な俗信」を引っ張ってくるのが「ラヴクラフト以前」のありふれたホラーだった。「文明=キリスト教」「俗信=非キリスト教」という文脈がそこにはある。しかし、ラヴクラフトでは、そんな手垢のついた文脈は陳腐であると見なし、この枠組みを壊した。「キリスト教は新しい枠組みに過ぎず、古き信仰によって、それは簡単に崩れてしまう」とした。
しかし、同時に、そこにラヴクラフトが「白いアメリカ」の呪縛に囚われているのも現実で、「キリスト教絶対主義」に対するアンチテーゼだったから、「斬新」だった訳です。
だから、「秘神界」の英訳版の序文において、ロバート・プライスは述べます。アジアとの混血をあれほど恐れたラヴクラフトの遺産、クトゥルフ神話を、アジアの人々が書くということは、その誕生を考えれば、大いなる皮肉だと。
話を戻しましょう。
『真・女神転生』Ⅰ&Ⅱに見られるようなアジアと欧米の価値観の対立と、クトゥルフ神話における「価値観の破壊」はやや軸のずれたものです。本来、クトゥルフ神話とは、キリスト教絶対主義の枠を超越したものであり、唯一神とそれに反旗を掲げる混沌のアジア諸神格の戦いを機軸とする『真・女神転生』の世界観とはスケールの異なるものなのです。
今回のシステムでは、それも分かった上で、あくまでも、『真・女神転生』の枠組みの中で、クトゥルフ的な感触の欠片を少しでも語れたらと思っています。
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