SR-71
「今朝、お前は西表島にいたはずだ。
なぜ、ロンドンで午後の紅茶が飲める?」
「ローズ財団には、最高速度のクーリエがいてね」
笹本祐一 「天使の非常手段 RIO1」(ハルキ文庫)を読む。
ロケット式シャトルから水平離陸型スペースプレーンへと切り替わりつつある近未来の宇宙港で、遺伝子改造人間「エクストラ」の少女リオがトラブルシューターとして活躍する連作短編。1990年に富士見ファンタジア文庫から刊行されていた作品の全面改稿である。
3編ある最後の作品「WAR」は、超光速エンジンの設計図を巡るチェイスを描くものだが、赤道直下の南太平洋からジュネーブ(スイス)へ逃げるために、アメリカ軍最後の高速偵察機、SR-71ブラックバードが登場する。偵察衛星の発達で引退した同機はマッハ3の巡航能力を持ち、その後、高高度観測や実験機となったが、ここに登場するのは、スクラム・ジェットの実験機で最大マッハ7で巡航できる。ミサイルすら追いつけない領域に飛び込む。
ブラックバードは夢がある。それは音速を超える巡航性能という一点に全てを傾け、研ぎ澄まされた1本の黒い矢ともいえるフォルムに表現されている。マッハ3の速度により、ほとんどの戦闘機の追撃を無効化する。漫画「ヘルシング」において、あらゆる攻撃を撃退する魔弾の射手を切り抜け、大西洋上の空母に達するために使われたのも印象的である。
「ブルーローズ」では、ローズ考古学財団最速の移動手段として、これを用意した。
冒頭の台詞はその場面だ。世界中を舞台に活躍する21世紀初頭の冒険。そのための翼のひとつだ。
(ああ、困ったことに、まだいくつかの手段がある)
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