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May 15, 2005

新シルクロード:仏典漢訳

新シルクロード 天山南路 ラピスラズリの故郷」を見る。
 このシリーズは25年前に作られた名作「シルクロード」の続編であるが、四半世紀の差が実に印象的なシリーズである。「ブルーローズ」のマスターにとっては、ネタ満載のシリーズとも言える。
 毎回、見るたびに、ああ、このネタが・・・と思うのである。

 さて、今回はタイトルからするとラピスラズリ掘りの話のように見えるが、実は、天山南路のオアシス国家、亀茲王国(現クチャ)の王子にして、仏典の中国語翻訳者である、鳩摩羅什(クマラジュウ)の物語。
 亀茲国は、匈奴と中華帝国の間で衝突の場となった国。
 鳩摩羅什が35歳の時、当時の中国は五胡十六国時代で、前秦が攻めてきて、亀茲を征服してしまう。王子でありながらも、インドの血が入った鳩摩羅什は若い頃に出家させられ、キジル石窟の仏教寺院で修行していた。征服された当時、すでに名僧として知られていたが、征服者によって、破戒僧となることを強いられた挙句の果て、仏典や財宝とともに、長安へと拉致される。この旅の間に長安では政変が起こり、前秦から後晋の時代に。
 鳩摩羅什は長安で仏典の漢訳を命じられ、今、日中で使用される基本仏典のほとんどを漢訳した。その数300点。玄奘三蔵を遡ること二百年。有名な般若心経の「色即是空」などは彼によって生み出された表現である。

 非常に面白い番組であったが、特に印象に残ったのは、鳩摩羅什が若い頃、母である王女が言った言葉である。当時はまだ、中国には仏教の教えが十分に伝わっていない時代である。北方の騎馬民族・匈奴と、東方の中華帝国の間で揺れる亀茲国の方針として、中国に平和を尊ぶ仏教の教えを伝え、戦乱をおさめようと考え、鳩摩羅什に「それが出来るのはお前だけだ」というのである。
 言い方を変えると、思想兵器たる仏教を持って、東方の軍事国家を押さえようと試みたのである。ちなみに、この時期、北の脅威である匈奴帝国は、騎馬民族ではあるが、実のところ、かなり高度な文明を持つ国家で、四分五裂の五胡十六国時代の中国のほうが野蛮だった可能性がある。
 閑話休題。
 残念ながら、仏教伝播によって中国を温和な国に変える遠大な計画を実際に行う前に、亀茲国は征服されてしまうが、鳩摩羅什の漢訳作業により、中国は仏教化され、その教典はさらに海を越え、日本へと運ばれていく。
 歴史とは面白いものであるよ。

 「ブルーローズ」的に言えば、古代インド文明の言語生命体「仏教」が、翻訳者鳩摩羅什を通して、中国を制圧したということであろう。こういう解釈はモンティ・パイソンの「世界最強のジョーク兵器」みたいでいやだけど。

PS:今回、鳩摩羅什のモノローグを石坂浩二が担当した。旧「シルクロード」の名ナレーションが復活した感じで非常によかった。ぜひ、また出演して欲しいものだ。現ナレーションの松平氏より素晴らしい。

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