北海の日本帝国水雷艦隊
1904年10月、露西亜帝国第二太平洋艦隊、通称、バルチック艦隊は北海の闇の中にいた。
そして、彼らは出航以来、ある恐怖にとり憑かれていた。
「北海で、日本帝国海軍の水雷艇が待ち伏せしている」
そして、北海ドッガー・バンクにおける狂気の夜が始まる。
巡洋艦アウローラ最後の夜に何が起こったのか?
修羅場中。
合間合間に読む「坂の上の雲」はやっと4巻目、バルチック艦隊のロシア出航のところまで来た。
ここで、ドッガー・バンク事件が起こる。
露西亜帝国のバルチック艦隊は、第二太平洋艦隊として、バルト海に集められた露西亜艦隊主力艦の集合体だが、編成当時からなぜか「敗戦ムード」が漂っており、指揮官ロジェストウェンスキーの神経質が艦隊全体に蔓延した結果、「北海で、日本帝国海軍の水雷艇が待ち伏せしている」という妄想がまるで、戦略上の事実であるかのように広がり、兵員全員が神経過敏な状態になってしまう。
明治37年、当時の日本に、はるか欧州まで水雷戦隊を送る余裕などどこにもなかった。
やっと国家の形を形成したばかりの日本は、北の強国ロシアから自国を守るのに必死で、バルチック艦隊到着までに極東ロシア艦隊を殲滅せねば、もはや終わりだとさえ思っていた。日本海を守る東郷艦隊以外に艦隊はなく、それも旅順艦隊を半壊させるだけで、もはや悲鳴を上げている。
陸軍の半分以上が、満州から遼東半島で数で倍するロシア陸軍と死闘を演じている。
そんな状態で、水雷戦隊を欧州まで送れるわけなどないのだが、なぜかロシア艦隊はそう信じていた。
やがて、艦隊に追随する修理作業船カムチャッカが「日本の水雷戦隊に追尾されている」という、悲鳴にも似た無線通信を発する。結局、それらの船の正体は明らかにならなかったが、艦隊全てが恐怖のため、眠れず、そのまま、夜に、北海のドッギー・バンク海域に突入する。ここは元は平野だった場所で、非常に浅く、豊かな漁場となっていた。そして、英国など北海沿岸の漁船が昼夜を問わず、操業していた。
夜間に、この海域に踏み込んだ艦隊は、操業する漁船群と遭遇した。
漁船を「日本帝国艦隊水雷戦隊」と勘違いした艦隊は、ヒステリックに砲撃を開始し、漁船20隻ほどに大被害を与え、多数を死傷させた。さらに、僚艦の巡洋艦アウローラを「日本海軍」と混同して、砲撃。これを撃沈。そのまま、救助活動もせずに、北海を脱出、長躯、スペインまで無寄港で逃げていく。
これを境に、バルチック艦隊の黄昏、ひいては、ロシア帝国の没落が始まるのである。
クトゥルフ神話TRPGのネタとして考えるならば、何かがそこにいたと考えるべきであろう。あるいは、「タイタス・クロウ」のように、英国情報部にいた魔術師との間に何かが発生したのかもしれない。妄想は尽きない。
PS:石川雅之「人斬り龍馬」。不殺と神格化された坂本龍馬を、天誅系人斬りのテロリストとして、新撰組の目から描くという幕末歴史異聞コミックでした。龍馬の神格化は、明治中盤になってから、行われたもので、薩長閥への皮肉でもある。クトゥルフ・ガスライトあたりの日本編で扱うと面白いかも。
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