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September 28, 2005

深淵:ガイウスの帰還

「ガイウス叔父上! どこに隠れた!」
 ジェイガンの雄叫びが、城壁に木霊した。
 だが、もはやガイウスに答える力はなかった。敵兵との一騎打ちで左手を失ったガイウスには、泉水の魔鏡を抜け、落ちのびるしか出来なかった。
 頼るべき水魔の王は黒き火龍の炎に焼かれた。
 城壁の下では荒れ狂う狂戦士とおぞましき黒騎士の群れを率いた漂泊の戦姫が、新たにまとった闇と同じ色の魔剣を振るっている。

 もはや、これは人外の戦場である。

 今朝方の奇襲ですべてが崩壊した。
 水魔の王が守護する地下水道を渡り、奇襲部隊が乗り込んでくるなど、誰が予想できよう。それこそ、もっとも女神の加護が行き届いていた場所ではなかったのか?
 魔鏡を抜けた瞬間、ガイウスの意識が飛び去っていった。

 我をあがめよ。
 願望を形にするのだ。
 おさえてはならない。

(……贄だ……)
 何かがささやいた。
(……代償を支払え……)
 しゃがれた声が木々の枝におちる、ねっとりした煤のような闇から滴ってくる。
(……力が欲しいなら……)
 魔性の声か……これは。

「お気がつかれましたか?」
 ガイウスが目覚めたのは黒々とした森の暗がりの中であった。
 その闇にひそむ異様な雰囲気。あの声は……。
「ここは……黒き森の奥か?」
 ガイウスの問いに、若い騎士が答える。確かユーリアの息子ジュスタス。見回しても、付き従うは、ジュスタスとその配下の騎士見習いが二人ばかり。まだ騎士叙任も済ませてはおらぬ者ばかり。
(ああ、後は死んだか)
 ガイウスは言葉にしなかった。
 落胆などしている暇はない。
 失った城と国、そして、片腕の恨みを晴らさねばならぬ。
 ジェイガンの小僧に侯爵位を渡してしまったことはしかたない。
 奴でも半年ほどは国を守れるだろう。
 力を手に入れよう。
 バッスルとユラス、そして、フィレアの商人どもに領地を盗み取られる前に。
 その方法は分かっている。
 この森の奥にそれはある。
 そして、支払うべき代価も。

 友よ、それが汝の言う理想というものか?
 単なる愚行に過ぎぬ。

 ラルハース継承戦争の翌年、敗死したと思われていたガイウス・ラルハースは、妖魔の軍勢とともに、ラルハース侯爵領東辺、辺境騎士団領を襲った。死霊の公子は骨の城を築き、黒翼の王は黒き妖魔を駆って夜空を駆けた。ガイウスの左手には見慣れない銀の大鎌が握られていた。
 ラルハース分割を企てていた北原の諸国は、封印を解かれた魔族の恐怖を改めて知ることになる。
 そして、バッスルには永遠の冬が忍び寄りつつあった。

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 知人からのメールで、発作的に「深淵」の話が書きたくなったので、北原のワールド・ガイドを小説風に書いてみる。「第二版」の時代は、このあと、もう少し先である。

PS:「金剛神界」の締め切り中なので、変なスイッチを押さないように。>>該当者
 ちなみに、細かいことは秘密なので、後は妄想するように。

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