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October 13, 2005

永遠の冬1:晩秋の雲

 雲が空を渡っていた。
 三日月のような、あるいは、巨大な鳥のような、巨大な雲。
 あるいは、雲のように巨大な一羽の鳥。
 それは悠々と青空を飛んで、また今年もやってきた。

 5歳の秋。
 ウィリスは野菜畑でそれに気づいた。
 見上げた青い空に、巨大な鳥が飛んでいた。北からやってきた雲の鳥。
「父上!」
 ウィリスは、畑で叫んだ。
「空に大きな鳥が!」
 畑で芋を掘っていた父親が空を見上げた。
「ああ、もうそんな季節か?」
「父上、あれは?」
「冬翼(とうよく)様だ。もうすぐ、冬だとわしらに教えてくれるのだ」
「冬が来るのか?」
 少年は呟く。
 バッスルの西、広大なロクド山系の冬は長く厳しい。ウィリスの一家が住むグリスン谷は、その只中にある開拓村だ。谷の実りは豊かだが、冬には万全の備えをしなくてはならない。雪が降る前にやるべきことは数え切れないほどある。
 父親は立ち上がり、少年の側に寄る。
「そうか、今年はお前が見つけたか?」
 父親のがっしりとした手が少年の肩を優しく抱いた。

 それはまだ永遠の冬が来る前のこと。
 ウィリスが目覚める前のこと。

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 「深淵」のバックストーリーの一環を思いついたんで、忘れない内に、小説めいた書き込みを残しておく。暇を見て、続きを書く予定。
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●コミック
公家侍秘録4 高瀬理恵
 徳川時代、京都で貧乏生活をする公家、日野西家に仕える青侍、天野守武の話。
 基本的に、数寄物ネタの多い人情話であるが、公家の関係が多いのが特色か。

ほしのこえ  原作:新海誠 漫画:佐原ミズ
 伝説の自主制作アニメをベースとしたコミック。異星生命体との接触が始まった近未来。中学3年生のミカコとノボルは同じ高校を目指していたが、ある日、ミカコは国連宇宙軍に選抜され、宇宙へ行くことをノボルに告げる。光さえ一瞬では届かない距離の前に、宇宙と地上で行き来するメールは、やがて、間隔を置くようになり……。
 原作のイメージをそのままに描ききった一冊。

●今日の一言
『キノの旅Ⅸ』「作家の旅」を読んで

 絶望する知性より、なお進む蛮勇を。

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