« 永遠の冬1:晩秋の雲 | Main | 永遠の冬3:発見 »

October 14, 2005

永遠の冬2:白の戦姫

 その人は石の中で待っていた。
 近づいてはならないと言われた、深い森の奥。
 そして、僕らは出会った。

 7歳の夏。
 ウィリスは、森の奥で誰かの声を聞いた。
「……誰か? いる……」
 少年は、ガースに向かって投げようとしていた落ち葉の塊を取り落とし、振り返った。森の木々しか見えない。ここは谷から少し上がった森の奥だ。近くにいるのは幼なじみのガースとメイアだけだった。大人の姿はなかった。
 薪拾いをする村の大人にくっついて森にきたのは、薪と茸を拾って帰るためだったが、子供らにとって、茸探しはかくれんぼや悪ふざけの合図も同然だ。
 そうして、大人から離れ、落ち葉の塊をばらまいて遊んでいたのだ。
「……誰か? いる……」
 少年はもう一度、森の奥に向かって問いかけた。
 声は帰ってこなかった。
 木々の間の闇が少し濃くなったような気がした。
 頭上でさわさわと木の葉が音を立てた。少し風が出てきたかもしれない。

 気づくと、板のように屹立した石の前に立っていた。
 もとは恐らく真っ白であったのだろう石が、森の真ん中に立っている。表面は磨かれた玉のように滑らかだった。
 まるで谷川で取れる小石のようだな、とウィリスは思った。
 初めてみるものだったが、この石のことは知っていた。村では「白の石碑」と呼ばれている。はるか昔、妖精騎士様が、悪い魔族の王を倒した記念に立てたという。今でも毎年、春になると妖精騎士がここにやってくると言われている。だから、近づいてはいけない場所だった。
 しかし、ウィリスは少しも怖いとは感じなかった。
 きれいだな。
 素直にそう思った。

「ふふ」

 鈴を転がすようなかすかな声が響いた。
「うれしいわ」
 目を上げると、白の石碑の上にひとりの女性がいた。真っ白な鎧具足をつけ、毛皮の帽子を被った勇ましい姿ではあったが、ウィリスには彼女がとても美しい若い女性であることが分かった。
「あ、こんにちは」
 ウィリスはぺこりと頭を下げた。
 どこかの貴族の姫かと思ったからだ。
「見えるのね」
 女性はウィリスを見つめた。
 彼女の青い瞳がすーっと深くなった。
「ここは禁忌の場所。もう帰り」
 ウィリスは彼女の言葉に従うしかなかった。
 村へ戻る方向へ走りながら、再び、石碑を振り返った。
 もはや彼女はいなかった。

 ウィリスは彼女の話を誰にもしなかった。なぜか、話してはいけないような気がした。

------------------------------------------------------------------
昨日の続きその1.
まだまだ物語の始まり。
------------------------------------------------------------------
●映画
 昨日、テレビ東京で「光る眼」を見た。
 クリストファー・リーブス追悼ということであるが、マーク・ハミルとか、マイケル・ペレとか、懐かしい俳優が色々出ている。ああ。

●ネタになりそうなニュースメモ
 読売新聞12日朝刊より。
 中国黄河流域の遺跡より、中国最古の麺が発見された。恐らく洪水で埋没したものらしいが、紀元前2000年頃とされる。
 しかし、麺って残るもんかね? 日本のご飯とかが残るとは思えない。

|

« 永遠の冬1:晩秋の雲 | Main | 永遠の冬3:発見 »

Comments

The comments to this entry are closed.