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November 06, 2005

永遠の冬13:反乱

 奪われないために戦わなければならない。
 剣を取り、牙を磨く。
 それでも、生きていかねばならないから。

 ウィリス11歳の春は波乱に満ちたものとなった。
 西方風見山の狼煙が上がり、狼煙台のウィリスはさらに狼煙を上げた。東方、砂の川原の狼煙台が赤い煙を上げた。それは予想外の警戒を示す煙だ。

「風見山の銀山で何ぞあったのじゃな」
 村からの知らせで狼煙台から降りてきたウィリスに向かって、婆はそう言った。
 西方の風見山には古い銀鉱山がある。以前はずいぶん栄えていたというが、今や細々と流刑者が銀を掘るばかりだ。銀の質も落ちているらしい。今はミネアス様が治める砂の川原のほうが栄えているという。
「いずれにせよ、村は備えねばならぬ。
 戦となれば、兵10名、馬2頭を揃え、村にも守りが必要だ」
 そう言って村長がウィリスを振り返る。
「お迎え役を村から出仕させるのは心外だが……。
 人手が足りぬ。婆もお前に行けと」
「お前には雪狼様のご加護がある。
 時には、お前にしか見えぬものがあるかもしれぬ」
と、婆はうなづいた。
 そうして婆が虚空を見上げた。
「風が荒れておる。西から東、東から西。いずれも吠えておる」
 ウィリスの耳に、雪狼の遠吠えが聞こえたような気がした。

 狼煙の2日後、街道を見張っていた村人が慌てて、九十九折れを降りてきた。
「峠から、赤揃えの騎士が!」
 村長に率いられ、ウィリスら出仕の兵10名が馬2頭を連れて、坂を上った。
 峠から下ってきた騎士は、きらびやかな姿であった。全身を真紅の鎧で包んでいるだけでなく、磨き上げられた兜の額には水晶がはめ込まれ、鮮やかな紅白の羽とともに、この世ならぬ艶やかさを放っていた。大柄な軍馬さえも銀の馬鎧に包まれ、ただならぬ雰囲気を放っている。
 その傍らには同じく赤揃えのお仕着せをまとった歩兵4名が付き添っている。いずれも、分厚い鎖帷子の上から戦胸甲をつけ、まがまがしい輝きを宿す斧槍をかついでいる。
「これが噂に聞くマリュアッドの騎士か!」
 村長が恐れ入るように漏らした。
 マリュアッドの騎士はバッスル軍でも精鋭と名高い一族だ。砂の川原のような砂鉄の産地を支配し、バッスル侯爵に仕える一族の中でももっとも豊かで、もっとも誇り高い。その証がこの赤揃え、真紅の鎧だ。砂の川原を支配するミネアスは、この赤き一族の傍系に当たるという。
 対するグリスン谷のものたちは、鉄の額当てをつけただけの毛皮帽子を被り、厚手の毛皮を背負いばかりでほとんど鎧と言えるものは着ていない。武器も、古びた剣や槍ばかりである。ウィリスも、村長から借りた小振りの剣と数本の短剣を装備しているばかりだ。
「グリスン谷のものか?」
 騎士は面頬を上げた。
 そこにはミネアス様に似た若い顔が見えた。
「我はミネアスが一子、カルシアスなり。
 これより、西方風見山へ向かう。汝らは我に従え!」

 カルシアスは、徒歩の兵を引き連れ、西へと進んだ。
 途中、グリスン谷のような開拓村からの出仕兵を加え、その兵員は50近くに膨れ上がった。出仕兵たちは村ごとに1隊にまとめられた。グリスン谷の長は、水車小屋のヤンがついた。
「戦になったら、ウィリスは、ダーシュの横についていろ」
 ヤンはそう言った。

 グリスン谷から三日進んだあたりで、風見山から逃げてきた兵と出会った。
「反乱です。流刑衆が何者かに解放され、監視の兵を襲いました」
 脱出の際、矢を受けたままの兵士は苦しげに報告する。
「水魔が現れました。おそらくはラルハースの残党かと」
 カルシアスの顔が歪んだ。
 バッスルにとって、不倶戴天の敵ラルハースは水魔の国だ。ラルハースの主力である泉水騎士団は、その名の通り、泉の女神を信仰し、おぞましい水魔を使う。
 先日の内戦の結果、バッスルに友好的な甥ジェイガンが爵位についたが、逃げ出したガイウスやその配下である泉水騎士団の残党が、ロクド山に逃れたという噂もある。
「やっかいな戦になるぞ」

 かくして、少年はいやおうなく戦いに巻き込まれていく。

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少し間があきましたが、反乱編第三話という感じで。
戦いは果てしなく。
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