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January 06, 2006

永遠の冬20:間奏02:棘のある雛菊

 雪に悪意はない。
 風に悪意はない。
 されど、積もった雪は家を潰し、冷たい北風は旅人を凍えさせる。
 そういうものだ。

 殺意、というものが単独で存在することはありえない。
 何かが何かに向けて放つものである。
 しかし、その日、風見山の麓の木々は一瞬の殺意の波に現れた。

 どこからともなく、波の音が響き、やがて、雪解け水のたまった池がざっと輝いた。
 次の瞬間、池の水面に反射する光の中から一人の女性が飛び出し、池の縁に降り立った。
 女性、いや、少女と言えるだろう。
 愛らしくも無邪気な笑顔をたたえた少女である。
 レースを多用したゆったりしたドレスをまとっている。年齢は12か13ぐらい。
 人形のように綺麗な少女。
 いつぞや、ウィリスが峠道で出会った少女のような「何か」。
 それが、池の水面から突然、出現したのだ。

 そして、それに応じるかのように、殺気を帯びた北風が木々の枝をざわめかせた。

 少女は一瞬、その殺気に押されるようにふらついたが、しっかりと池の縁に立った。
 そのまま、林の中へと進んでいくと、雪が残っていた。
 春が終わろうとしているというのに、この林の中は今だ冬の様相だ。
 振り返れば、風見山は今も白く雪化粧している。

「もはや、ここは冬の領土であるか」

 少女はひとり呟き、両手を合わせ、目を閉じた。

「死者の中に、あの子供の影はなし。
 ほお、水の騎士をこれほど完全に砕かれるとは……」

 少女は微笑んだ。
 艶然と。
 また、風が殺気をはらんで、粉雪を巻き上げた。

「汝らの主を傷つける気などないわ」
 少女は虚空に語りかける。
「我らも、《永遠の冬》に仕える者。
 その証はアヴァターにてお見せいたしましょう」

 風の中に何かがささやいた。
 少女は答えもせずに、雪野原に背を向け、池の縁まで戻ると、上代語の詠唱を始めた。古き時代、妖精騎士と神々が使いし、魔力ある言葉が紡がれる。その力は少女の周囲にきらめき、渦巻き、やがて、鏡のような水面に広がった。詠唱に答えるように、どこからか波音が響いてきた。次の瞬間、少女の姿は消え、詠唱の声も消えていった。
 あとはただ季節外れの寒風が吹きすぎていった。

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第四章に入る前に、間奏を1回。
ええ、彼女です。
一応、一回こっきりの登場ではなく、どこぞで暗躍中、という訳で。
次回こそ第四章、グレイドル編の予定。
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