« 日々雑記:ポーションを飲む | Main | 深淵:黒い魔道書 »

March 10, 2006

歴史の中を漂う

 ついに、『比叡山炎上』の原稿が終わり、一息。
 これから、校正とか、チェックとか色々ありますが、何とか、四月末発売の方向でいけそうです。

 だからと言って暇になる訳でもなく、昼から神保町方面に出かけて、資料の手渡しとか、次の仕事とか、ごにょごにょ打ち合わせをしてきました。「巫女さんとナチスで何ページ、書けますか?」とか、「萌え記号を百個言えるか?」とか、かなりダメな会話をした気がする。

 ついでに、図書館によって、資料あさり。この後も歴史本の仕事がある。
 巫女さんの研究だけで3冊並んでいたので、目次をコピー。
 ネタが全くかぶっていないのが凄い。

 この週末はゲーム三昧ですが、それもまた仕事であったり、なかったり。

●姉小路公知
 某企画の関係でちょっと調べ物していたら、ずいぶん面白い人物を見つけた。
 姉小路公知は、文久3年5月に京都で暗殺された尊皇攘夷派公卿の若きリーダーで、享年27歳。和宮降嫁をきっかけに、幕府に攘夷決行をつきつけたり、土佐勤皇党の武市半平太や長州の桂小五郎と親しく付き合った激派の公卿だが、死の一ヶ月前、勝海舟の蒸気船に乗った日から、攘夷決行の危険を知り、攘夷反対に回ったため、寝返ったといわれたが、それは世界認識が正しくなったというべきだろう。

 実はこの時、姉小路公知は坂本龍馬から、蒸気船の模型とともに、クリミア戦争の戦図をもらい、欧州の戦争の実態を説明されたのだ。

 クリミア戦争は、この6年前に終わった一大戦争である。南下し、黒海進出を図るロシア帝国に対して、弱体化したオスマントルコ帝国が、欧州列強の助けで戦うという、事実上の第0次世界大戦である。特に、セバストポリ城塞包囲戦は11ヶ月に及び、死者11万6千人に及んだ。あまりの病死者の多さに、ナイチンゲールが立ち上がり、病院改革と看護婦制度の確立を行うのであるが、まあ、それはさておき、とんでもない戦死者である。クリミア戦争全体では死者20万人とも言われている。
 その結果、戦争はほぼ引き分けとなったが、ロシアと戦わされたオスマントルコ帝国は弱体化し、どさくさ紛れに欧州列強の介入を許してしまう。英仏に利用された感がある。

 これを例にして、攘夷決行の危険を説明された姉小路公知は、攘夷の危険さにやっと気づき、幕府寄りに変わるが、5月20日、深夜、猿が辻で暗殺者に襲われて、負傷。その場では刺客の剣を奪う活躍をするが、出血多量でその夜のうちに他界する。猿が辻とは、内裏の鬼門避けに、内裏の東北角をくぼませ、魔よけに猿の像を置いた場所であるが、鬼門避けが、仇となったのである。
 残された刀から、犯人としてつかまったのが、薩摩出身の人斬り、田中新兵衛であるが、無罪を主張し、取調べ中に自殺したため、真実はわかっていない。おそらく、田中ははめられたようだ。なぜならば、田中は、薬丸示現流の達人であり、武芸の覚えもない公卿を暗殺するのに失敗するような素人ではない。ましてや、刀を取られて、逃げるというのも腑に落ちない。
 いろいろ、興味深い話である。

 ……そして、これが、近藤ら浪士隊がやってきたばかりの京都の状況である。近藤や土方はこの一件には全く関係ないし、おそらく、この事件の被害者にも加害者にも、彼らは出合っていなかった。ただ、公卿さえも暗殺される血なまぐさい古都に、放り込まれたのである。

●コミック
Y十M 3    蛇の目は五つ。

|

« 日々雑記:ポーションを飲む | Main | 深淵:黒い魔道書 »

Comments

The comments to this entry are closed.