« 歴史の中を漂う | Main | 海を辿って »

March 13, 2006

深淵:黒い魔道書

妖精騎士よ、前世の宿縁、今生こそ我が炎をもて晴らさん!

 昨日は都内のサークル「無限CON」にお呼ばれして、「深淵第二版」のGMを。
 プレイヤーは5名。初めての人も含めていたので、シナリオは「戦火の街を救うため、禁断の魔道書を荒野に住む賢者のもとへ運ぶ」という、【粗筋】だけある渦型シナリオを使用する。渦型とは、おおよその概要だけ決めて、後はPCの運命に任せる形で、即興で運営する「深淵」独自のシナリオ形式である。

●戦火の街ラストール
 今回は、東方からハジの荒野に攻め込んだ火神教団の猛威の前に揺れるラストールの街が出発点。

 火神教団は、炎の大公を信仰する東方の蛮族帝国である。第二版の世界では、炎の軍団が東方から攻め寄せ、東方辺境にも激しい戦乱をもたらす。そして、一部の先行部隊が大峡谷を渡り、中原やハジの荒野にもなだれ込む。その軍団を指揮するのが、魔族の力を有する女神官、紅蓮の戦姫ウルスラである。
 ラストールは、ウルスラの軍団との戦いに街の兵団を送り出すが、これが壊滅。やむなく、街の神殿に封印されていた黒い魔道書の封印を解くため、志願者を募り、荒野に隠れ住む賢者ミルバに届けに行く、というもの。

●シナリオ・レギュレーション
 魔道書運搬シナリオなので、転移系、飛行系の魔術を持つキャラクターは禁止。原蛇の魔道師禁止。
 あきらかに持って逃げそうなキャラクターは非推奨。
 最低でも、戦闘系キャラクターが1名以上。

●PC
 ひたすら不幸で、骨肉の戦いで故郷を出た傭兵クロード。遠縁の従兄弟、ブランドは炎の大公に身を捧げ、それゆえに、クロードを深く憎悪し、殺そうとする。

 王者の相を持ち、炎の大公に復讐を誓う吟遊詩人レイル。下級貴族の私生児であり、火神教団に殺された死んだ父に代わり、復讐の戦いを決意する。

 ウルスラの秘密を知ったため、呪われた盗賊ガイア。味覚、臭覚、触覚を奪われ、生きる快楽を得られない上、おぞましき呪いは深淵への扉さえも開いてしまう。

 妖精騎士の血を引き、森の結界から帰還した女狩人オルツィ。戦火で母親を失ったヨシュアを拾い、同道するも、心は妖精騎士の血筋のものとして、魔族との戦いに捧げられている。

 戦火で母親を失い、オルツィに拾われた少年ヨシュア。その心は悔恨と死者の声によって、無謀な行動へと駆り立てられる。

●縁故の妙
 ここで、プレイヤーの提案で、ヨシュアとオルツィが血のつながらない親子という設定になる。
 では、その人間関係を示すために、縁故ポイントを割り振るように指示する。「深淵」ではこの縁故ポイントの多寡で、人間関係を計るのであるが、これには限りがある。比較的自由な運命を持つヨシュアからは縁故5点がオルツィに割り振られるが、妖精騎士の血筋、森の結界と比較的重めの運命を持ち、社交の低めなオルツィは、もはやあまっている縁故が1点。オルツィは「母としての愛情は希薄な保護者」という立ち位置に立った。
 この哀れな風情が、やさぐれて盗賊に落ちぶれたガイア、不幸なクロード、私生児のレイルと、年上でダメな男たちの同情を引き、続々ヨシュアに同情縁故を割り振ることになる。

 かまってくれる男たちに向かって、ヨシュアは「母ちゃんを頼む」と言いかけるが、当の「母ちゃん」は、街に迫る火神教団のリーダー、ウルスラが、前世からの宿敵であることを知り、もはや、ヨシュアを振り返る余裕の無いことを知る(縁故5点を設定。そのため、愛用の弓、ヨシュアへの縁故が消滅、森の結界から持ち帰った牧人の石への縁故も削れてしまう。PC的には魔族教団の女神官とのバトルを避けられない状況に)

●黒い魔道書
 ラストールの神殿に封印されていた魔道書。
 上代語でもない封印された、魔術的な暗号で書かれており、賢者ミルバ以外には読むことが出来ない。世界を滅ぼす大いなる暗黒の力が封じられているという。ラストールの長老は、街を救うため、暗黒の開放を決意し、PCたちに、この本を運ばせようとする。これは火神教団に奪われないためでもある。
(召喚値50扱いの魔道書)

●旅の物語
 「魔道書運搬シナリオ」は非常にシンプルな、システム・シナリオである。
 形式としてはロード・ムービーのように、さまざまな運命に縛られたPCたちが、強力な力を持つ魔道書を警備して、3~7日、荒野を旅する。目的地についたら、魔道書か、一行そのものを狙う魔族、または魔族相当の敵役が出現し、PCたちと戦う。「運ぶもの」と「敵」と「目的地」を変えれば、外見上、全く別なシナリオになる。途中に、障害を入れれば、さらに雰囲気が変わる。そのあたりがすべて同じでも、PCの運命次第で千変万化である。

 では、このシナリオがどうして面白いかと言えば、「夢歩き」や「運命」とフィットするからだ。

 旅に出たら、1日に2~3度、夢歩きを行い、「黒い魔道書の誘惑」と絡めて、「運命」というキャラクター設定を深めていく。GMはたいてい「その運命はこういう意味で」とか、「運命を解き明かすために、力は欲しくないか?」とかささやいていればいい。あとは、夢歩きと夢歩きの間に、PCが自由に言葉を交わすシーンを提供する。すると、なにかが動き出す。GMは動きにくそうなPCに、次の夢歩きで別のチャンスを与える。
 基本は、この繰り返しである。
 三日ほど進めると、勝手な運命が増え、さらにPCの立ち位置が明確になっていく。
 そして、戦闘の場面では、PCたちの運命の渦は苛烈な相克を生み始めるのである。

 今回は、オルツィとヨシュアの母子関係に焦点が当たり、「黒い魔道書の誘惑」や「ウルスラの呪い」という外的な脅威を皆が耐え切ったため、裏切りがでることなく、賢者の庵へ。

●賢者ミルバ
 魔道書を解読できる賢者。
 彼は「無垢」の運命を持つ。「魔法を感じられない体質」であるが、ゆえに、魔道書に魂を食われることなく、魔道書を解読することのできる老人。内容を説明し、指導はできるが、自分では、魔法を使えない。

 シナリオではミルバが解読を始めたところで、炎の戦車に乗ったウルスラが襲ってくる。
 その直前、魂の奥底に眠る封印を解放したオルツィが、妖精騎士としての記憶を取り戻し、妖精の弓(魔剣扱い)を獲得した。
 ウルスラは炎の戦車を駆り、火炎の魔剣を振るうが、クロードと切り結ぶうちに、オルツィが撃つ妖精の弓から放たれる必殺の矢を三度払って、魔剣が粉砕される。その後、炎の戦車でオルツィをひき殺そうとするが、オルツィは間一髪でこれをよけ、クロードの一撃に倒れた。

●魔道書の秘密
 戦いの後、解読を終えたミルバから、「黒い魔道書」が暗黒のおぞましい破壊の力を秘めていることを聞かされる。その力をある場所に放てば、そこは暗黒に飲まれるだろうという。あるいは、その力を黒い魔剣にすることもできるだろうともいう。
 しかし、PCたちは、その危険を考え、ウルスラを倒したことで混乱するだろう火神教団を自らの手で撃退することを選び、ミルバに魔道書の封印を委託する。

●エンディング
 ラストールに戻った一行は、残った人々を導き、2ヶ月に及ぶ激戦の末、火神教団を撃退することに成功した。
 戦後、傭兵クロードは新たな戦場を求め、街を去っていった。復讐を果たしたレイルは、滅びた故郷を復興することを決意し、帰郷することにした。誘われたガイアはその故郷へと向かっていった。
 そして、宿敵との戦いを終えた妖精の弓使い、女狩人オルツィは、おのれの人生がもはや残り少ないことに気づいていた。あと、なすべきことは妖精騎士の血を絶やさぬこと。しかし、荒野の旅をともにした男たちは皆、己の戦場を求めて去っていった。身近にいるのは血のつながらぬ息子ヨシュアのみ。
 まだ子供にしか見えない少年を抱きしめ、オルツィはささやく。

「私は最後まで、お前の母親にはなってやれなかったな」

 ~fin~

●禁忌
 オルツィのエンディングは、ある種、社会的な禁忌に触れる選択である。おそらく、忌避する人もいるであろう。

(ちなみに、オルツィのプレイヤーは女性であり、彼女自身がこのエンディングを選択した)

 その可能性は、GMとして、中盤より予測範囲に浮かんではきていた。シナリオ上、必須の展開ではなかったたし、男性であるGMから女性プレイヤーに向かって言葉にすべき類のものではなかったので、口にはしなかったが、あえて、彼女から提案されたので、そのニュアンスを踏まえて、エンディングに取り込んだ。

 運命をつきつめていくと、こうした選択肢が浮上する場合がある。

 「深淵」の世界観は、それを許容しうるし、おそらくプレイヤーもそれを受け入れる可能性は高い。その上で、GMは状況をきちんと把握し、セッション完成度や、セッション環境を台無しにしない範囲でその提案の可否、あるいは、語り方を決断するべきだろう。

 時には、公式の世界設定とずれるかもしれない。

 冷静に考えれば、彼女が妖精騎士の血を守るために、そこまで禁忌を犯す理由はない。あとから考えれば、王者の相を持つレイルこそ、正しき配偶者であっただろう。しかし、運命に追い詰められた人の子が狂気に染まる姿もまた、「深淵」の世界でもある。
 あの場では、それを許容し、そうした物語となった。
 状況が違えば、また、結果は異なっていたであろう。

 デザイナーとしては禁忌もまた、幻想物語のテーマであるとしておく。

 その上で、あえて言えば、禁忌とは、禁忌であることを知り、それを実行することをためらうべきものである。このためらいがあって、初めて、禁忌は物語を生む。物語が生まれぬならば、それは、おぞましくも醜い行為に過ぎないのである。

 では、最後に、ウルスラのデータを。

●紅蓮の戦姫ウルスラ

 火神教団を率いる炎の女神。炎の大公ヴァニールに仕える下僕である。

 今回のシナリオでは、オルツィに魂を宿らせた妖精騎士との戦いに決着をつけるため、次々と若い女神官の肉体を奪っていきる魔性の女という秘密を持つ。オルツィを見ると、宿敵と呼ぶ。

召喚値70
行動値17(移動距離30) 吸収値7

攻撃1:魔剣「炎天」 技能値7+修正8=15
効果値5 +《炎の嵐(強度17)》

攻撃2:戦車蹂躙 技能値7+修正3=10 
効果値5打打 +転倒 +追加20点  
通過攻撃(8mの移動を伴う突進攻撃)

攻撃3:狂乱の舞 範囲型(7m)の影響値攻撃 強度17の「狂乱」

|

« 歴史の中を漂う | Main | 海を辿って »

Comments

The comments to this entry are closed.