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April 17, 2006

永遠の冬26:記憶の厚み

 自分が誰であるかなど、どうやったら確認できるというのだ。
 過ごした日々の厚み以外に、何がそれを証明してくれるというのか?

 ウィリス11歳の夏。
 ヴェイルゲン城で出迎えてくれた魔道師のひとり、仮面のバスカレイドは、婆から意味深な言葉を投げかけられた。

「それは、おぬしの記憶か?」と婆が聞いた。
「ええ」とバスカレイドは即答した。
「ならばよい」と婆。「それならば」
「記憶とは」とバスカレイドは返した。「とても曖昧なものです。
 人間が把握している情報というのであれば、それは非常に広範囲のもので、しばしば恣意的に加工されます。我々魔道師は、幻視によって多くの情報を得ますので、私の記憶の中には、幻視を通して体験した他者の人生が混じっています。
 それでも」
 バスカレイドは微笑む。
「夕焼けについて、問われたのは私の記憶です」
 婆は何も言わなかった。

 やがて、夜になり、二人の魔道師は去っていった。

「あれは一体、どういう話だったのですか?」
 ウィリスは婆に聞いた。昼間の魔道師たちとの会話についてのことだ。
「分かったか?」
「ううん、全然」
 ウィリスには何も分からない。
「彼らの会話には真実など無い」と婆が言う。
「現れたことだけに意味がある」
 ウィリスはますます、混乱した。
「お前は、これで魔道師たちを得体の知れない何かだと思うだろう。
 魔道師の言葉に惑わされてはならない。
 あれらの言葉には棘と毒が潜んでいる。
 触れる時には気をつけることだ」
「分かった……婆」
 ウィリスは不安だった。
 そこで婆はウィリスをぎゅっと抱きしめた。
「魔道師は、人の心に罠を仕掛ける。
 だが、お前がここまで育ってきたグリスン谷を忘れるな。
 何かあったら、谷のことを思い出せ」
 ウィリスの脳裏にグリスン谷の風景が浮かんだ。
 父、母、婆、メイア……。
 そして、空高く飛ぶ《冬翼様》。
 ネージャ様と雪狼たち。
「言葉に惑わされそうになったら、風に耳を澄ますのだ。
お前には雪狼がついている。
 焦って、走り出すな。
 冬の力は常にお前の回りにある」
 答えるように、窓の外で風がうなりを上げた。
 
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多忙のため、更新が遅れました。
魔道師との会話、終わり。
次回は木曜日前後に。
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