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July 31, 2006

英雄王の遺産@深淵CON

 神話本、進行中。媽姐の話から山海経へ。

●英雄王の遺産@深淵CONシキサイ
 昨日は深淵CONシキサイ。都内の深淵ファンが季節ごとに開いてくれているOnly-CONである。

 今回は、JGC2006での金曜日夜25時からのセッションを、こちらの代表、印南氏と、滋賀県の在胡氏に手伝っていただくこともあり、第二版のテスト・バージョンを提供し、回していただく。
 その他、『比叡山炎上』で色々歴史関係の資料で助言をいただいたTさんに、見本誌を渡し、御礼を。早速、チェックいただき、「戦国時代の職業のバリエーションが見えてよいですね」との感想。ありがたい。

 さて、私も第二版で、最近、回しているシナリオ「英雄王の遺産」をGM。このシナリオはすでに二度、解説しているが、基本的には、枠だけが決まった渦型シナリオ。

●古城物

 土台となる構造は「古城物」である。

「古城に足を踏み入れたPCが、そこに隠された魔法のアイテムを発見するが、それにはおぞましい魔族の意図が秘められていた」

【アイテム】英雄王ジェラールの遺産である、【大地を揺るがす者】との契約を象徴する、王笏、王冠、玉座である。これを揃えて、生贄を捧げると、魔族の力が使えるというもの。

【初期状況】PCは、戦乱によって、今までいた国を滅ぼされ、夜の山道を山腹の古城に向かって逃げていく。

【強制要素】敵軍も、その英雄王が死んだという古城に興味を持っているのか、松明を掲げ、ゆっくりと山道を追ってくる。おそらく、夜明けには城まで追いつくだろう。【時間制限】

 あとは、運命の幻視を用いて、カードの導くままの即興マスターリング。

●キャスティング

 まず、15ほどに絞ったテンプレートから選択。
 ここで、常に私が告げるのは「プレイヤーの魂に近いものを」という助言。

 時折、適当に絞ってから、ダイスで決めようとする人がいますが、それは出来るだけ止めてほしいところです。なぜならば、ここの選択が、後々の楽しみにつながるからです。

 「深淵」では、そのキャラクターの葛藤を演じる楽しみがあります。
 運命、縁故、夢歩きがその葛藤を引き出します。
 そこで、感情移入できる「魂に近い」テンプレートこそ必要なのです。

 どの立ち位置が得意であるか?
それが心地よいかどうか?
 これは人の資質や経験に関わるもので、出来る人と出来ない人がいます。ベテランで「何でもやれます」という人もいますが、「楽しんでロールできるか」は別だと思います。

 騎士をやると落ち着く人。
 少女や少年を扱ってこそ映える人。
 異端教徒で秘密を握ると生き生きする人。
 貴族として、当然のように他者に奉仕を要求し、「よきに計らえ」と丸投げできる人。

 色々いる訳で、実際、「やったことがないから、変わったテンプレートを」という選択肢は、「深淵」の場合、葛藤の前段階であるキャラクターの把握の難易度を1段階、上げてしまうことになります。そうして、活躍できずに終わったり、ちぐはぐなロールプレイに陥ったりしたプレイヤーを、何人も見ています。

「でも、毎回、傭兵なんて、つまらないのでは?」

 いいえ。違います。
 「深淵」の運命は、二度と同じ傭兵を演じることを不可能にします。

 魔族に呪われつつ、恋人の元に戻るという誓いを立てた傭兵。
 ただただ不幸な上に、人がよくて他人を見捨てられない傭兵。
 呪われた魔剣に縛られ、復讐の道を歩む傭兵。

 二つの運命の組み合わせは、91×90=8190通り。いくつかの運命は関与する魔族などの分岐がありますから、事実上、無限と言えます。
 安心して下さい。キャラクターはこれからさらに激動に巻き込まれていくのです。

 そういう訳で、プレイヤーが悩んだり、せっかくの機会を台無しにしようとしたりしたら、彼らを手助けし、選択の意味を伝えるのも、GMの役目であると思います。
 私はプレイヤーが悩んだら、GMから、シナリオにおける立ち位置の可能性を示唆します。

 例えば、夜道を山上へ向かう今回のシナリオのように、野外移動があるシナリオ場合、「狩人」ならば、道案内役を求められる。「盗賊」ならば、場違いなチンピラや悪党を求められる。同じ戦士系でも、「騎士」ならば、パーティの潜在的なリーダーを、「歩兵」は仲間の盾となる役目(一種の守護者)、戦闘をリードするアクションが必要な「弓兵」ならば、戦場での狡猾さを求められる。
 こうして、考えてみると面白いですよね。

●運命の幻視

 結局、プレイヤーが選んだテンプレートは、傭兵、奇妙な狩人、騎士、弓兵。
 さて、ここからがキャスティングの本番。運命の幻視をしながら、流れを作っていく。いや、この部分が「深淵」でも楽しい部分です。

傭兵
【傍観者の記憶】 →過去の事件を後悔している。
【破滅の予言】

奇妙な旅人(魔族を信仰する秘密結社:目的:魔族の解放)
【自己犠牲】 → 大義のために死す定め(デフォルト)
【親が罪人】 → 父は野盗で、討伐された。→父親の運命【魔族の呪い】 → 赤い目のスゴンの宝玉を得る。

騎士
【追い求める仇】 → 復讐の相手の運命【愛する者を滅ぼす予言】 → その恋人【無垢】
【親殺しの予言】 → 父親の運命【幻視】(何か見えた) →見えたことによる運命【探索】

弓兵
【不義の子】
 → 父の運命【苦痛の刻印】By「死の貴婦人」
 → 母の運命【骨肉の争い】(家族の誰かを殺したいほど憎んでいる)
【誓いの言葉】  恋人に何かを誓っている。 
 → 恋人の運命【際立った性格】:猪突猛進 → その性格の派生させた事象【悪い噂】 → 【冬の予感】

 システム上、派生した運命を「シナリオ予告編」とあわせ、プレイヤーとGMが質疑応答しながら、ドラマを作っていく。

傭兵ルーベン  【傍観者の記憶】【破滅の予言】
 PCが傍観者に留まった結果、事件を悪化させたという運命なので、【破滅の予言】があったので、1歩踏み出せなかったということにする。
 鍵となるのは、「後悔した出来事」の内容で、ここでは、国が滅びたことに関わることということで、国王戦死の際に、護衛役でありながら、躊躇いがあったということに。ここで騎士のプレイヤーが部下を叱咤する会話の流れで、傭兵と絡んでくれることに。
 実は、セッション開始後、傭兵は第三の運命【失踪】を得て、さらに、王家の物語に絡んでいくことになる。

旅人アイザック 【自己犠牲】【親が罪人】
 もともと、「奇妙な旅人」は立ち位置が明確で、選んだ途端に、GMから「君が今日のラスボスか!」と言われるテンプレートである。親が罪人というのもねじれた性格の理由になるし、魔族の宝石を得て、プレイヤーもやる気満々な「奇妙な旅人」は、すでにラスボス確定。

騎士レイモンド 【探し求める仇】【親殺しの予言】
 父親は【探索】の運命にあり、幻視の結果、英雄王の遺産を探していることに。しかし、騎士の父ということは、上級貴族であり、この戦時下にそんなことをしているため、親子の仲が悪化した、という話に。この段階で、GMもプレイヤーも、行く手の古城に、父親がいるよねということで一致。
 【探し求める仇】は、仇の恋人が【無垢】ということで、ピュアな王女様マリエン姫を急遽設定、敵のギュスターが姫をたぶらかした上に、裏切って国が滅びる結果になった、という復讐の原因にリンクすることに。
 その後、セッション中に、騎士レイモンドは、【魔族への復讐】を引き、縁故残量から、仇のギュスターが「緑の猟犬」の手先だったことが判明するが、残念ながら、レイモンドはアイザックの正体に気づく前に自刃することに。

弓兵ロイエ 【不義の子】【誓いの言葉】
 破滅へまっしぐらの3人に比べ、家庭内暴力に苦しんでいるものの、恋人や家族のため、生きて帰るぞ!という運命が並んだロイエ。生還への意識はとても重要なので、無理にいじり過ぎないようにする。

 重要なことは誓いの言葉である。相談の結果、「アルマ、必ず君の元に帰る!」ということに。

GMは一言。「キューっていったら、今の台詞をよろしく!」

 ちょっと生還への欲求が強すぎて、最初の離脱者になってしまった。

●英雄王の遺産

 今回はNPCを絡ませることに注目して進行した。

 まず、2~3回、夢歩きしながら、PCの運命と目標を確認し、不気味な古城へのアプローチをする。
 古城でレイモンドの父と会った一行は、父が持つ不気味な王笏を気にしつつも、英雄王の霊廟へと向かう。すでにこの段階で、レイモンドの心は王笏に引き寄せられている。それをそそのかすアイザック。

 何かの声を聞いた傭兵ルーベンは霊廟を離れ、山道を戻っていく。
 すると、山道には、ひとり、敵から逃げたきた王女マリエン姫の姿が。純真な姫君は、背後に裏切り者の騎士ギュスターが迫っていること、自分が騙されて英雄王の遺産の話をしてしまったことを泣きながら告げる。

 一方、霊廟の中では、王笏の力(生贄の血で、魔族の力を使う)に気づき始めたレイモンドが、すでに【親殺し】モードに。父親も、王笏に支配されており、「わしが英雄王の後を継ぐ」とか危険な台詞を血走った目で叫び始める。親子の争いに、己の運命(【不義の子】とか【骨肉の争い】とか)を見たロイエは、一瞬、それを止めようとするが、「では、代わりにお前が生贄になるか!」と言われ、黙り込んでしまう。「ああ」と答えようとした。それが忠誠だと思ったが、誓いを立てた恋人の顔が脳裏をよぎったのだ。

ロイエ 「では、俺が生贄に。これでみんな幸せですね」
GM  「キュー」
ロイエ 「……ここであの台詞ですか?
 【誓いの言葉】を思い出したら、生贄になんかなれないじゃないですか?」

 ロイエは、目をそむけるように、霊廟を出て、ひとり、故郷に向かって走り出す。

 入れ替わりに、霊廟にたどり着いた姫君とルーベンの前で、レイモンドの【叙事詩に残る一撃】が、父親を真っ二つに。

 レイモンドは、王笏、王冠、玉座を手に入れ、魔力を起動するために、生贄が必要なことを知り、一言言う。

「この国に身を捧げようという忠臣はおらぬか!」

 その意味を悟り、答える声もない人々。
 マリエン姫が叫ぶ。

「そのような血塗られた力など入りませぬ。
 民の血の上に築かれた帝国など滅びてよいのです!」

 すでに王笏の魔力に捕らわれていたレイモンドにとって、【無垢】なる姫は、格好の生贄候補にしか見えない。彼女こそ生贄……と思い立ったところで、姫への忠誠を思い出したレイモンドは、復讐を果たすため、自らを生贄に捧げ、【大地を揺るがす者】の力で土石流を発生させ、敵軍もろともギュスターを葬り去る。
 それが、最大の忠誠と信じて。

 しかし、現実はより残虐であった。

 騎士の死んだ後、霊廟に残ったのは、邪悪なる異端者アイザックと、傭兵ルーベン、そして無垢なる姫君である。アイザックはレイモンドから王笏と王冠を奪い、さらに、王笏に赤い宝玉をはめ込み、姫を生贄に捧げるべく、襲い掛かる。必死に守るルーベンは激闘の末、その王笏を奪った。

「王笏を私に」
と、マリエン姫は言った。
「全てを終わりにしましょう」

 彼女は自らを生贄に、この霊廟を破壊し、すべてを終わらせることを望んだ。
 彼女の胸を貫いた王笏から二つの光が放たれた。
 まず、アイザックがはめ込んだ赤い宝玉から、赤い瞳の魔族スゴンが解き放たれた。死の吐息を吐く白骨の龍が、死をばらまきながら、世界に飛び出し、ふもとの街に生き残っていたすべての敵を死に至らせた。
 この時、ルーベンも即死した。
 そして、混沌の多彩の光とともに、王笏の本来の持ち主である【大地を揺るがす者】が目覚め、山そのものを崩壊させた。霊廟もまた激しい地震によってつぶれた。アイザックは、死の吐息を逃れていたが、王笏を姫から取り上げるために、逃げ遅れ、岩の下敷きになって死んだ。

 ただ一人、早めに霊廟から離れたロイエだけが、二度の土石流を避けて生き延びた。
 彼に帰る場所がある。
 たとえ、それが憎悪に満ちた家であっても。
 恋人への誓いの言葉を果たすために。

●深淵GMのコツ?

 弓兵役のプレイヤーから、以前、「深淵」のGMをして失敗したという話を聞く。
 どうやら、かっちり構造型を作ってしまったところで、GMのイメージと異なるPCの行動によって、GMプランが狂って、本人としては「惨敗」という結果になってしまったらしい。
 「深淵」は、美しい幻想物語の生成を加速するギミックを満載したシステムであるが、それはあくまでも、プレイヤーとGMの共同作業である。おそらく、GMのイメージがすでに完成しすぎたものであったと思う。
 これはありがちなことで、もっと広めに考えて、単純なシナリオでゆるやかにプレイヤーとのセッションを楽しむとよいと思う。

 「深淵」には、そうした支援をするための多数のギミックが、やや過剰なぐらいに用意されている。実のところ、「英雄王の遺産」や「落雷」のような単純なシナリオが、実は非常に深みのある、濃い人間関係を生み出してくれる。「運命」や「縁故」、そして「夢歩き」というギミックがそこに深みを与えるのである。

 もしも、これから、「深淵」のGMに挑戦しようという方がいた場合、最初は、比較的単純なシナリオ、例えば、旅先で、罠を張って待つ魔族の下僕との戦いのような状況に、2~3回の夢歩きを交えるようなものをプレイし、運命や縁故を深めていくことだけを目指すとよいだろう。

●寝小魔夜伽草子
 読了。
 龍脈の乱れを正すべく、各地を流離う女、お玉を主人公にした江戸伝奇コミックの連作。
 的場健の、切り絵のように尖った黒と白の際立ちを艶やかと感じられれば、なかなか風情のある絵柄と言えよう。黒禰宜との術合戦もあれば、田舎のぬし神を巡る人情話もあり。

●Runner Havens
 シャドウラン第四版の都市サプリメント(紙版)がAmazonから到着。結構、早いなあ。
 内容は、香港、シアトルをメインに、ケープタウン、カラカス、ハンブルグ、イスタンブールが少し。
 ゆっくり読みますよ。

◆復刊ドットコム 深淵復刊投票中

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