« JGCレポその6:『真・女神転生X』ロストナンバー | Main | JGCレポ8:R&R新作発表会(シャドウラン、『真・女神転生X』) »

August 21, 2006

JGCレポその7:『比叡山炎上』:瀬戸内耶蘇郷異聞

 あっという間に、JGC最終日。
 9時から、R-CONにて『比叡山炎上』のセッション。
 昨深夜の抽選で4名に決まっていたが、予定時間を過ぎても1名現れない。何かの都合でキャンセルとのこと。キャンセル待ち処理も終わっていたので、担当セッションが終わっていた内山靖二郎さんをゲスト・プレイヤーに招いて、スタート。

●PC
茶人 明月一夜
切支丹 黒須十兵衛
忍び 朧
地侍 鈴木六郎勝之

●信長様と魔道書
 時は元亀2年師走の頭。
 元亀改元以来、信長包囲網の中で苦しむ織田信長は、ついにこの夏、比叡山を焼き払ったが、それは逆に信仰心の厚い武田信玄の上洛を促した。比叡山炎上の後、甲府に逃れた天台座主、覚如を要した武田軍団が南下、織田勢力圏東部を守る徳川家康に襲いかかりつつあった。
 間もなく、徳川家康と武田信玄が激突する三方ヶ原の戦いが始まろうとしていた。

 そんなおり、織田と武田の決戦近しという噂に揺れる京都で、PCたちは京都本能寺に滞在する羽柴秀吉に呼び出された。
 彼らの目の前に、差し出されたのは巨大な表紙を獣の皮で装丁された奇怪な南蛮の書物『Wyrms Mysteries』(妖蛆の秘密)。秀吉によれば、南蛮の魔道書であるという。

「お館様の命である。
 至急、この書物を解読し、かの武田信玄を呪殺する秘法を解明するのだ」

触っただけで何かまがまがしい魔道書を、いきなり、押し付けられる一行。
しかたがないので、秀吉に当代の知識人を片っ端から紹介してもらうことに。

秀吉「奈良に、松永弾正がおる。茶好きの爺じゃが、なかなかハイカラでバサラな奴だ」
一行「それは最後の手段に」
秀吉「琵琶湖畔の坂本城に、明智光秀がおる。かの御仁は古今東西の事跡に通じている」
一行「(あの人の正気度を下げたくないなあ)。もっと近い場所には?」
秀吉「京都に伴天連のルイス・フロイスと、日蓮宗の坊主、朝山日乗がおる」

●ルイス・フロイス
 まあ、ラテン語なら、外国人だろうと、ルイス・フロイスを訪ねるが、フロイスは本を見た瞬間、悲鳴を上げる。
 しばらく前に、坂本城に監禁され、その要約を書かされそうになった。
 一週間かかって一時的な発狂、一ヶ月寝込んで回復したのが最近だという。

「そんな邪悪な書物は焼くのが正しい」

 ええ、まあ、そうなんですけれど、信長様がヤル気満々で。

●朝山日乗
 しかたないので、日蓮宗の僧侶で、信長の側近でもある朝山日乗の屋敷へ。
 この人は出雲出身の外交僧で、朝廷と信長を結ぶパイプ役でもあるのだが、以前、フロイスに宗論で負けてから、伴天連に対抗意識を燃やしている。

「フロイス殿が出来なかった仕事です」

と焚きつけに成功。解読を開始する朝山日乗は、なんと一夜目に解読ロールで大成功。
 地底の女王【すうど・める】とそれに従う長蟲【クドオニ】を召喚する呪文を発見する。

「ふははははは、分かったぞ、分かったぞ」

 召喚の儀式を開催するため、PCたちに南蛮渡りの阿片を大量に集めるように命じる。

 このあたりで、PCもかなりハイになっており、切支丹の黒須は、自分の故郷は日本のインスマウスとか言い始めている。
 今回は、クトゥルフ神話TRPG自体、始めてとか、久しぶりというプレイヤーが多かったので、サンプル・キャラクターを改造する形で。地侍が戦闘力を増強するため、技を追加したら、「軽い健忘症」に。おかげで、「君は忘れていたが、実は!」という後付設定がバンバン飛び交う奇怪な世界がスタートした。
 ちょうど、この時も、南蛮の品なら、当時、貿易港だった堺であろう、しかし、伝がないなああ、そういえば、健忘症の地侍は出身地を書き忘れているではないか? 

「君は忘れていたが、実は実家が堺の貿易商で」

 おいおい。

●堺
 そういう訳で、堺の鈴木屋という貿易商の六男坊になった地侍を先頭に立てて、堺へ。
 朝山日乗の言う通り阿片を集めてくれるように、頼み込んだが、これがまたやたら大量で、「鉄砲三千丁」と大差ない要求。朝山は阿片窟が開けそうな量を要求していたのである。
 さすがに、全部集まるかどうか分からない。
 そう言えば、さらに東へ行った浜辺の村に住む偏屈な伴天連が、座礁した南蛮船から引き上げた阿片を大量に隠し持っているという噂がある。
 そこへ行こうという話になるが、ここでまた「実は……」。

 切支丹の黒須は冒頭から、「自分が生まれた黒須村は、切支丹村であるが、実は日本のインスマスみたいな」と言い続けていた。
 こういうとき、ハイになっている卓の勢いというのは怖いもので、阿片を隠し持っている伴天連の村が黒須村であることに決定。急遽、里帰りすることに。

●黒須村
 瀬戸内に面した漁村、黒須村についた一行は、妙にキンキラキンで歪んだ角度に満ちた南蛮寺や、破壊された地蔵の祠、微妙に鰓が張って目が離れた村民などに奇妙な感覚を受けながらも、村出身の十兵衛がいたため、村にすんなり入り込む。

「みんな、でいうす様とあすたあ様とでいごん様の三位一体のおかげじゃあ」

 色々間違った信仰だが、そのおかげで、浜辺で引く地引網には魚が一杯、珊瑚や奇妙な形の金塊が混じっている。南蛮寺のゲオルグ神父によれば、「主の教えの原点に遡った」とか。
 どこまで遡ったんだか、分からないが、十兵衛の故郷で暴れる訳にはいかない。
 平和裏に阿片を渡すようにいうと、クリスマス・イブのミサで使うので、その後まで待ってくれという。

●朧、失踪
 しかたなく、その晩は十兵衛の実家に泊まることに。
 家族の顔が少しヒラメ顔になっていたとか、生魚ばかり出るとか、地引網を引くときの掛け声が「いあ、いあ」だとか気になる点はつきないが、親父とほのぼの酒を飲む。

 それよりも気になるのは浜辺に座礁したままになっている南蛮船。
 そこで、忍びの朧が忍び込むが、謎のギヤマンの破片にこびりついた黄金の粘液の匂いを書いてトリップ、天使の幻影を見て発狂、そのまま海に沈んでしまう。

 翌朝になっても戻らぬ朧に慌てる一行。
 三人で、南蛮船の調査に行き、朧が落としたギヤマンの破片の匂いをかいで、次々トリップ、十兵衛は水中に落ちるが、なぜか人類とは思えない速度で泳いできた父親に救われる。首の横にある筋が鰓みたい。

●脱出
 一方、朧は海辺の洞窟に転がされていた。
 伴天連のゲオルグは、阿片の香で朧を洗脳しようとするが、失敗、隙を見て縄を抜けた朧は阿片の隠し場所を発見、夜になって仲間の元に忍び帰る。
 このままでは、何かされると踏んだ一行は夜陰に乗じて脱出、阿片を奪って逃げ出す。包囲しようとする村人を馬で蹴散らして村を出た一行だが、途中で地下の長蟲に洗脳されそうになり、追いついてきた天使と戦う。
 多々正気度が減りつつも、石化光線は不発、天使剣が閃くも、地侍と切支丹(元兵法者)の牙突が炸裂、天使を振り切って堺に帰還した。

●本能寺のクリスマス
 地侍鈴木の実家が集めてくれた分と合わせて、朝山日乗の命じた分の阿片を集めて京都に帰還した一行は、やたら目の血走った朝山日乗と再会する。
 朝山はおそるべき勢いで、『妖蛆の秘密』を読破し、儀式の準備を進めていたのである。

 かくして、師走の15日、満月の晩。それはユリウス暦で言えば12月25日、クリスマスであり、さらに遡るならば、古き信仰においては、ユールの日という。

 京都本能寺の庭には、かの東欧の秘山もさぞやというべき、黒曜石の石碑が屹立し、その周囲の松明には阿片が投じられていた。
 縁側に立つは、第六天魔王、織田信長。
 横に仕えるは、正室濃姫、側近明智光秀、羽柴秀吉。
 信長がうなずくと、庭に控えた朝山日乗と僧侶、侍女たちが、満月の光に照らされた黒曜石の碑のまわりで、人の言葉とは思えぬ異形の讃歌を歌いながら、舞い踊る。
 阿片が投じられた松明からは、紫と黄金に輝く芳しくも妖しい香りを伴った煙が漂う。

 そして、月が頂点に達する頃、不可解な光が碑から舞い上がり、東方へと飛び去っていった。

 本能寺ではそれだけしか起きなかった。
 しかし、信長は満足そうにうなずいた。
 「これで信玄坊主めは終わりじゃ」

●三方ヶ原の戦い

 元亀2年末、武田信玄は上洛を開始、徳川家康の領土に襲い掛かった。家康は何度も救援要請を信長に送ったが、信長は形ばかり、佐久間勢を送ったものの、主力軍団を動かそうとはしなかった。
 数に劣る家康は篭城をするしかなかった。

 そして、明けて2月3日。
 武田軍団はついに、篭城する家康を攻めずに、通過する様子を見せた。一戦もせず、敵を通すとは武門の恥と出撃した徳川家康は三方ヶ原におびき出され、壊滅に近い被害を受けた。家康は何とか生還したが、恐怖のあまり馬上で糞をもらしたという。あまりの恐ろしさゆえ、その表情を絵師に描き写させたものが、今も徳川家に残っている。
 しかしながら、武田軍は徳川殲滅の寸前で軍事行動を停止、やがて、甲府に戻っていった。
 まるで葬送の列のような軍団は甲府の手前で、陣没した比叡山座主の葬儀を行ったが、これこそ信玄の葬儀であったと言われる。三方ヶ原の戦いの途中、信玄は倒れ、その後、陣没したとされる。死因は肺病とも胃癌とも言われるが、真実は分かっていない。
 信玄は、「我が死を三年秘せ」と言い残したが、信玄の死は天下に明らかであった。
 信長は、まるで信玄の死を見通していたように、三方ヶ原の直後、兵を京都に返し、覇業に邁進した。

 羽柴秀吉は、信長の命に従い、中国方面に進出、堺から西へ西へと織田領を広げていった。この後、なぜか、秀吉の蔵には黄金が満ちるようになった。また、この頃を境に水攻めを得意とするようになった。

 これらの史実の背景に何があったかは分からない。
 黒須十兵衛らがその後、どうなったかも歴史には何も残ってはいない。

◆復刊ドットコム 深淵復刊投票中

|

« JGCレポその6:『真・女神転生X』ロストナンバー | Main | JGCレポ8:R&R新作発表会(シャドウラン、『真・女神転生X』) »

Comments

The comments to this entry are closed.