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October 30, 2006

深淵:冬越しの巫女舞い

我が飢えを担うか?
それとも我が飢えを満たすか?

 昨日は、東京深淵CON~シキサイ~で開発中の「深淵第二版」のGM。今回は、脳内が巫女本の資料でかなり侵食されているので、「冬越しの巫女舞い」というテーマだけを胸に、即興型のマスターに挑戦しました。

注釈:「深淵」は運命、縁故、夢歩きと、ストーリー支援型のギミックが組み込まれているので、他のゲームでは、フルアドリブといわれるタイプの即興マスターリングが楽しく遊べるようになっています。私自身はもっぱら、即興型か、枠だけ決めた半即興型をプレイすることが多い。

●想定ライン

 GMとしての想定は、美しい姫巫女の舞いで、封印された魔族である村の守護神、雪狼の戦姫ネージャ様が山上の封印へお帰りになる新春の神事です。この風景の中で、PCたちが自らの運命を解き明かすため、ネージャを返す神事を(実行する/妨害する)、あるいは、先んじて何か行う。

●PC

 プレイヤーは5名。マスター経験者2名とほとんど初めての初心者3名。

・プラージュの下級司祭 ジェロード 
 神事を行うために、プラージュ教団から派遣されたエリート。
 運命は「任務」(神事の成功)と「待ち人の予感」。

・グラント (盗賊)
 商人の家に生まれたが、兄の仇リチャードを追ううちに、ドロップアウトした男。家に戻らないことで、家族に対してすまないと思っている。運命は「探し求める仇」と「罪悪感」。

・ピエール(仮名/奇妙な旅人)
 緑の猟犬に属する異端者。ネージャの封印を解き、魔族になろうと画策している。
 以前、黄昏の公女に遭遇し、以来、夜の闇が恐ろしくてならない。
 運命は「自己犠牲」と「恐怖症」

・マーカス(狩人)
 プラージュ教団によって故郷を滅ぼされた狩人。その真実を知るため、「大いなる予言を背負う人」を求め、神事の村へとやってくる。プラージュ教団に復讐の念を抱く。運命は「猟犬」と「故郷を失った」。

・吟遊詩人ブリジット
 雪狼の戦姫ネージャの血筋を引き、雪狼に守られた女流詩人。冷気に耐性を持つため、冬の山を越えて神事の村へとやってくる。「いつか自分に見合う素晴らしく慎重な男性と出会う運命にある」という、謎の妄想に囚われている(結果24歳まで独身)。運命は「魔族の血」と「妄想」。

 ジェロードとピエールが経験者。この時点で、ピエールの邪悪な陰謀により、他の4名が混乱に追い込まれ、NPCの姫巫女マーリアを殺害、神事は血塗られたものに……という展開をとりあえず、想像していたのであるが……。まあ、色々ありまして……。

●神事の村へ

 深き山々の奥、モリオンの丘の麓にある小さな村では、冬越しの神事に向けて、祭が始まろうとしていた。
 モリオンの丘は、雪狼の姫神ネージャ様が住まうという聖域である。この麓の村では、毎年、冬の到来とともに、ネージャ様を村の祭殿に迎え入れ、冬の終わり、新年にはネージャ様に多くの供物と姫巫女の舞いを奉じて山にお帰りいただく「冬越し」の神事を行っていた。この冬越し祭が終われば、雪も消え、春がやってくる。この地方では、どこの村でも、雪狼を山に返す新春の神事として行われているものであるが、モリオンの丘は雪狼の姫神の聖域であるがゆえに、この小さな村の、冬越し祭は、姫神様御自身を山に戻すものであり、村の大きさとは不似合いなほど、名高く、また盛大なものであった。

 プラージュ教団のジェロードは教団上層部から直々の指名を受け、この村の神事を手伝うため、雪山を越えて村に赴任してきた。
 この神事はどこの山村でも行われているものであるが、この村の神事は同じ冬越し祭の中でも重要なもののひとつであった。なぜならば、冬の女神を山に戻し損ねると非常に危険なことになってしまうからである。昨年も、その祭に失敗し、ネージャの怒りを買った村をひとつ、教団は焼き払うことになった。
 あの悲劇を繰り返さないこと。
 それはジェロードの任務であったのだ。

 村には祭りのために多くの客人たちが訪れていた。
 ピエールと名乗る商人は、魔族信仰の異端結社「緑の猟犬」の一員であった。彼はかつて黄昏の公女の解放に失敗、夜の闇に対する恐怖症を持っていたが、それは彼の野望、「魔族となって無限の命を得ること」を変えはしなかった。古き神事を残す村は、おそらく封印のありかであろう。彼の野望は間近にあった。

 グラントは兄の仇リチャードを追って、この村にたどり着いた。兄に似て、利に聡いリチャードは、この山々のどこかにいて、今も商人を続けているという。ならば、この祭は絶好の機会であろう。グラントは祭のために、村を訪れた人々をじっと観察した。
 落ちぶれたその身を隠すように、雪の残る村の軒先に潜んでいたが、祭前の振る舞いに熱心な村人の誘いを断りきれず、村の宴に招き入れられる。

 マーカスは自らの村が滅ぼされた理由を知らぬ。ただ、普段は穏健なプラージュ教団が、村を囲み、最後の一人まで焼き払った。家族を失ったマーカスは復讐を誓い、山野に潜むうち、神事の村に「大いなる予言」が下ると聞き、何かに駆り立てられるように村へとやってきた。ここで行われる神事のために、プラージュの司祭が来ているという。復讐か、それとも予言か、迷いを残したまま、マーカスは村に踏み込んだ。

 そして、ブリジットは母なる姫神ネージャの声に答え、この村へとやってきた。
 (ついでに婿探しも兼ねて)

●冬越しの神事

 村は冬越し祭を明後日に控え、すでに宴の様相を呈していた。
 旅人を歓迎し、食物を振舞うのは神事の一環。神と人が、冬の飢えを満たし、満たされた神は巫女舞いに送られて、聖域へと戻っていくのである。

 その神事の中核には雪狼の姫神ネージャへの怖れがあった。
 雪狼は、死の使いである。
 弱った命を刈り取り、喰らう。
 そうして、冬の間、飢えを満たした神は春ととも山へ戻り、眠りにつく。冬の翼が来たりて、冬を告げるまで。

 だが、飢えが満たされなかったら……。

 神の飢えは人の心に取りつき、おぞましき飢えを満たすまで、すべてを喰らわせる。神の飢えは、恐ろしく強力で、それは人を飢えの権化に変え、疫病のように伝染していく。飢えに支配された者たちは故郷を喰らい尽くし、やがて、近隣の村へと広がる。それは飢饉へと発展し、やがて、世界を滅ぼす。

 だから、冬越し祭の宴は、盛大なものとなる。
 神の飢えを満たし、魔性の飢饉を生まぬために。

 マーカスの村はこの祭に失敗した。
 前年、不作であった村は冬の女神の飢えを満たせなかった。
 神事をおろそかにし、女神を怒らせた村は、雪狼の群れに襲われ、食い尽くされた。魂を吸われ、凍りついた村。生き残ったわずかな者たちも、心を全て飢えに支配され、人ならぬ飢饉の種子と化していたのである。
 飢饉の原因となる飢えの権化を、近隣に広げぬため、プラージュ教団は、司祭戦士団を派遣した。戦歌が山々に響き、剣と槍が振るわれた。逃げ出そうとする者の背に、矢が放たれ、《雷撃》の呪文が唱えられた。封じられていた狩りの神の力が行使されたのである。

●狂宴

 そして、祭の日がやってきた。
 明日が本祭で、今宵が前夜祭(宵宮)となるが、すでに、村は祭の様相を呈していた。他の村からやってきた参詣者や客人に向かって、村人たちが鍋を振舞っていた。
 この祭が終われば、冬があけ、豊かな春がやってくる。
 そんな願いを込めた、冬越しの祭では、客人や隣人に食べ物を振舞うことで、福を招く。

 神の聖域を間近にするモリオンの丘の村では、その神事に対する取り組みは尋常ではない。冬の間、切り詰めてきた蓄えを放出し、神の飢えを満たすことで、災いを避けようとする。それぞれの家が大鍋を取り出し、飲食を振舞う。その食べ物が食べつくされなければ、祭は終わらない。ゆえに、村人たちは祭の間中、飲食の振る舞いを続け、祭に来た客人と、村の男たちは家々を回って、神の分まで食べ続けなければならない。

 祭の宴に隠れ、マーカスは真実を知るために、聖域であるモリオンの丘に忍び込んだ。一年を通して、雪に包まれた雪狼の姫神ネージャの聖域。
 そして、現れる「飢えたる雪狼の姫」は問いかけた。

我が飢えを担うか?
それとも我が飢えを満たすか?

 飢えを背負って下山したマーカスは、魂の底にまで沁みこんだ飢えに駆り立てられるように、村人の振る舞いを受けるが、マーカスとともに顕現した《飢え》は、疫病のように広がっていく。

 食べても食べても、満たされぬ飢え。

 水車小屋の青年もまた飢えの権化と化した。
 食べて、食べて、胃に入らぬまで食べて、倒れる青年。

 ピエールはそれこそが魔族の恩寵と知り、あえて《飢えの呪い》を受け入れた。

 飢えの権化が現れたことを悟った村人たちは、まさに、本当の冬越し祭を行わねばならぬことを感じ取る。巫女マーリアは、司祭ジェロードに、神の飢えを満たす神事が失敗すれば、おそろしいことが起こると告げ、ブリジットにも協力を求めた。《飢え》に支配された者が神の飢えを満たせなければ……。

 やがて、飢えの権化と化したマーカスとピエールは祭殿へと運び込まれ、神の代理人として村の供物を捧げられることとなる。あまりの過食のため、失神し、呼吸困難となって死に掛けるピエールだが、神の飢えを受け入れ、飢えで自らを満たせば、魔族の眷属となることができる。そう信じて、狂乱の宴を続けるのであった。

 そのピエールが実は兄の仇、リチャードであることを知ったグラントは、リチャードがこのおぞましい宴の果てに《神の飢え》に食い尽くされ、無残に果てるだろうことに気づき、復讐の快楽を感じた。

 そして、深夜、本当の宴が始まる。
 司祭ジェロードもまた、神の代理人として、その宴に加わることとなる。

 人の限界を超えた四度の膳を喰い尽くしたとき。
 マーカスは飢えから解放されるとともに、故郷の滅びた意味を受け入れ、この村に受け入れられた。
 ピエールは神の飢えをすべて受け入れ、ブリジットの婿に選ばれ、雪狼たちとともに聖域に迎え入れられ、魔の眷属となった。神の娘ブリジットは神の飢えを受け入れる狂気の男を得た。

 巫女マーリアの舞う巫女舞に送られ、ピエールとブリジットは聖域へと去っていった。もはやあの夜を恐れる商人は人ではなくなり、狼の眷属に変わった。

 それを見送ったグラントは兄の仇が人でなくなる姿を目撃し、復讐心を満たした。もう家に帰ってもよいだろう。家族が待っている。

 司祭ジェロードは神事を成功させるという任務を果たした。
 多くの村人は彼を祝福し、村に留まるように求めたが、ジェロードは教団での栄達の道を求めて村を離れることにした。この村で彼が為すべきことはすべて終わったのだ。教団の任務は果たされ、神の飢えは満たされた。そして、神の血を引く娘は伴侶を得た。
 祭は終わったのだ。
 さあ、街に帰ろう。
 冬は終わり、春がやってくるのだから。

~END~

●感想

 PC5名中、全員が何らかの運命を解決し、死者0、魔族化した人1名、神の聖域に帰った人1名、結婚相手の決まった人3名。実にハッピーエンド。ネージャ様が邪悪な方法で解放された場合に予定していた戦闘は結局、神事の成功により、回避されました。

 若干の問題は……その代わり、《神の飢え》を満たすという神事がヒートアップして、フードファイトと化したこと。ピエール、マーカス、ジェロードは、朝から大鍋料理を喰らった挙句の果てに、地獄のような大物料理と対決する羽目に。

巫女マーリア「本当の祭はこれからです」
商人ピエール「今までは前菜だと!」
(すでに、精神力-5、生命力-10)

 GMも暴走していて、《飢えの権化》を村人が「胃袋様」と呼んで拝み始めるとか、この村では大食いな男ほどもてる(そりゃ食えない人は長生きできない村だ)とか、本祭は四つの大皿料理を食い尽くすもので、あんころ餅、大きな魚の清蒸あんかけ、焼肉、生もつ(何しろ狼の飢えを満たすので)とか、かなりおかしなことを言い始めたので、笑いの絶えない謎の卓になりました。
 後で、主催者に「デザイナー卓が毎回、一番色物なのはどうよ?」とか言われてしまいました。ごめんなさい。つい、深淵CONは居心地がいいので、好き放題してしまいます。もっとゴシックホラーな雰囲気を求めてきた人にはすいませんでしたが、初心者の方も含めて楽しかったようですので、まあ、よかったかと。

 そういうことなので、次回(1月とのこと)は真面目でダークな感じのシナリオをやりましょう。

(何か危険な約束をしたような気がするが、それはそれでデザイナーの責務でもあろうから、自戒を込めてということで)

 打上は近所の中華料理店へ。
 ここは実際の中華系のおじさんが経営している店で、揚げパンが絶品なの上に、長居させてくれるいいお店である。三ヶ月に1回しかいかないのに、ニコニコしながら、迎えてくれる。ありがたい、ありがたい。
 色々ゲームの話をする。

 巫女経験者のOさんがいたので、食事をしながら、話を聞く。彼女の場合、友人の関係でアルバイト巫女をしている。神職になる予定はないらしいが、お守りの授与や製作、簡単なご祈祷の補助までするそうだ。神社によって、巫女の職務はかなり変わるようだ。なかなか勉強になる。
 ありがたいことである。

●百年の孤独

 帰ってきたら、大分の内田氏から荷物が届いていた。
 11月末に、また大分に行くことになったので、また色々食べ物を送ってくれたのである。新鮮なカボスや地元のお菓子、さらに、焼酎を長期保存して、独特のこくと風味を醸しだすに至った長期保存酒「百年の孤独」をいただく。

 ありがたくいただきます。

 同じ荷物の中に、大分にある宇佐八幡神宮にまつわる資料「神の声を聞く女たち」(91年に刊行された大分のミニコミ誌BAHANNo.2で、宇佐の巫女の解説が掲載されている)と「神々の姿~あらわされた日本の心」(大分県宇佐風土記の丘歴史民俗資料館で行われた展示会の資料で、)が入っていた。
 宇佐八幡は、古代に、神託をする巫女(女禰宜:にょねぎ)がおり、大和朝廷でも重視された大社である。今回の九州行きは、まるで巫女の取材においでといわんがばかりのタイミングで、内田氏から誘われたので、引き受けることにしたが、このような貴重な資料を送っていただき、実にありがたいことである。

 なんというか、今、欲しいと思っていた資料がふっと届いたのは、おそらく天の助けであろう。原稿も頑張らねば。

●神社若奥日記 鳥居をくぐれば別世界

 商社に勤める父の関係でインドに生まれ、東京でフリーライターをしていた筆者は、仕事で知り合ったイラストレーターと結婚したが、実は、夫の実家は、大阪の歴史ある神社の神主で、気づけば、神社の若奥様として、神社の世界に踏み込む羽目になる。それも大阪の濃~い氏子を相手に奮闘するエッセイ。
 社家(神社の家柄)とは全く関係しない筆者の視点がなかなか面白い。

◆復刊ドットコム深淵復刊投票

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