「30歳にして、ランドルフ・カーターは夢見る力を失ってしまった」
昨日は、クトゥルフ・オンリー・コンでした。
今回も、ゲスト・キーパーということで、『比叡山炎上』をしようか、幕末クトゥルフをしようか、色々悩んでおりましたが、『図解クトゥルフ神話』や『クトゥルー神話ダーク・ナビゲーション』で大活躍中の森瀬さんがちょうど、プロヴィデンスのラヴクラフト・カントリー取材から帰国され、お土産代わりに、ラヴクラフトの生家やお墓の写真をいただきましたので、「プロヴィデンス幻視行」というタイトルで、セッションをしてまいりました。
ラヴクラフト・マニアの日本人観光客たちは、成田からニューヨーク、ボストンを経て、ラヴクラフトが暮らしたプロヴィデンスを訪れる。だが、そのたびの間、彼らが見る奇怪な幻は……。
●混ぜるな、危険
今回、使用したルールブック。
1)クトゥルフ神話TRPG
BRPのほうです。基本ですよね、基本。
2)H.P.Lovecraft’s Dreamland
クトゥルフ神話TRPGにおけるドリームランドのサプリメントです。「Dreaming(幻視)」という技能があります。夢を見る力で、世界を革命できるのですよ(夢の中だけですが)
3)『比叡山炎上』
拙著。クトゥルフ神話TRPGで「戦国邪神伝奇」を遊ぶためのサプリメント。
4)Dark Mirror
クトゥルフ神話TRPGで、邪神の使徒をプレイするためのサプリメント。
主に、カバーのインパクトで勝負。
5)Cthulhu Tech
Wildfire LLCが開発した「近未来邪神VSロボット戦争アクションホラーTRPG」。マクロスとエヴァとガイヴァーを足して、敵エイリアンを、ミ=ゴとハスターとクトゥルフにしてみた。マングース・パブリッシングから刊行されていましたが、カタリスト・ゲーム・ラボから出ることになりました。10月中旬にカタリスト版が発売予定。
世界観の一部を流用。
6)深淵第二版
拙著。ダーク・ファンタジーRPG。夢歩きという独特のシステムを持つ。『Dreaming』技能との愛称はバッチリ。
この段階で、かなり「混ぜるな、危険」という実験セッションの香りが流れておりますが、もちろん、それでは終わりません。
参加条件:「ラヴクラフト作品に精通していること」。
いきなりハードルを上げました。ヒドイ。
まあ、ラヴクラフトの主要作品を読んでいるのは、クトゥルフ・オンリーコンだから当然ですよね! 創元の前全集を半分も読んでいればいいですよ! 外伝とか忘れても可。
●実名プレイ
さらに、追い討ちをかけるオレ。
キャラクターは『クトゥルフ神話TRPG』に準じて作成しますが、プレイヤー自身の名前をつけ、プレイヤーを再現したキャラクターを作ってください。能力値も、技能も、所持品も、資産も、プレイヤーのまま(多少の誇張とか、夢と希望とかはOK)。
「元自衛隊で、現在運転手なので、EDU底上げして、操縦に回します」
「ゲーム関係者なので、いいくるめが高いです」
「サバゲーをやってますので、射撃系の技能を」
「柔道やってますから、マーシャル・アーツと組み付きを上げるッス」
「栄養士に必要な技能は?」
「いいくるめでしょう」
いや、違うと思う。
これが結構、面白いです。一度、お試しを。
●夢歩き
Dreamlandから導入した「Dreaming(幻視)」の技能を用いる場合、夢の方向性を「深淵第二版」の夢歩きルールで行います。具体的には「Dreaming」に成功すると、カードを出して見る夢の方向性を決めることになります。
●クトゥルフ・テックとプロヴィデンス
さて、シナリオの本題は、2008年初秋のプロヴィデンス観光ですが、なぜか投入される『クトゥルフ・テック』に関する簡単な解説をば。
2085年、人類は絶滅に瀕していた。
アルカナテック(魔術工学)の発達と、D機関の開発によって人類は宇宙への進出の鍵を手に入れたが、それは、おそるべきエイリアンとの激闘の始まりでもあった。
太陽系外辺部、冥王星に拠点を築いていた昆虫とも植物とも言わないエイリアン、ミ=ゴが人類の拡大に脅威を感じ、地球への侵略を開始したのである。彼らは忌まわしい、異界の怪物たちを兵器として用いる一方で、人類世界へ浸透するため、ナザディと呼ばれる、人類のDNAを改造して作った人工種族を兵士として投入したが、ナザディの一部が、人類文化との接触により、自らのオリジンを取り戻し、人類側に寝返ったことで、人類は絶滅を免れ、ロボット兵器「テイガー」を戦線に投入した。
また、ミ=ゴの侵攻に触発され、海底の邪神を信奉する深き者たちと「ダゴン秘密教団」は、陰謀によって、人類社会を崩壊させようとしている。
これに、ハスターを信仰する「名状しがたきもの」たちの軍団まで飛来し、地球の半分以上が、人類の手を離れた。
そして、今、人類はこの「永劫戦争」を戦うため、最新兵器「エンゲル」を作り出したのである。
●ナイト・フライト
セッション開始時は、成田からニューヨークへ向かう飛行機の中。
「H・P・ラヴクラフトの世界、プロヴィデンスを巡る7日間」
あまりにもマニアックなツアーであったが、価格が安いのと、作家の作品の舞台を見られるというカルトな内容から、最低催行人数を越える5名が集まった。
とはいえ、ホラー作家絡みのツアーらしく、旅は出発からトラブル続きだった。
成田=ニューヨーク間は約15時間。機体の不調と突然の雷雨で、4時間も離陸が遅れた。そして、今も北極上空に突然、発生した乱気流の中、エコノミー・シートはしごく居心地が悪い。
それでも最初の4時間ほどはよかった。
同好の士同士で色々話が盛り上がった。ランチに続いて、「崖の上のポニョ」を見たのもネタになった。映画が終わった後、乱気流が発生したのと、機内が睡眠時間に変わったところで、皆、静かになった。
かなり疲れていたのか、おかしな夢を見た。
巨大ロボットに乗って軌道上へ射出される夢。
誰かが言う。
「敵と目を合わせてはいけない。
戦闘は計器で行うこと。
センサーの中央に、敵を入れて、射撃トリガーを引く。
それでいい」
「センターに入れて撃つ、センターに入れて撃つ」
射出のGが苦しいほどに胴体を締め付ける。
気づくと、黒人のCAが安全ベルトを締め直していた。
「乱気流が激しくなってきましたので」
●ターミナル
ニューヨークJFK空港。深夜2330.
航空会社のカウンターはすでにしまっていた。飛行機が4時間遅れたため、予定していたボストン行き国内便の最終便には間に合わなかった。5人は、旅行会社のカウンターに向かったが、もはや閉まっていた。状況の説明を受けた空港の担当者が、電話を掛け続けた結果、翌朝一番の便に振り替えとなったが、ホテルは取れなかった。
20ドル分のミール・チケット(食事券)を受け取った一行は、次々と照明が消えていく薄暗い空港ターミナルの中を、唯一、24時間営業しているという、軽食レストラン「ナイト・バー」へと、スーツケースを引っ張りながら、とぼとぼ歩いていく。
「あの、『ターミナル』って映画がありましたよね」
「国がなくなって、空港に住む男の話」
「……」
やっとナイト・バーにたどり着き、ヒスパニックのウェートレスとカタコト英語でやりあいながら、ビック・マックとポテト、馬鹿でかいサラダを食べる一行。
●ウィルマースの記憶
近くのボックスでは、黒眼鏡の教授と3人の若者たちが「黄金の蜂蜜酒」を飲みながら、地図を囲んでアレコレ会議中。
「教授」
「し、やつらはすでに、社会に紛れ込んでいる」
「だからこそ、早くルルイエを」
不穏当な会話に聞き耳を立てたり、スペシャル・メニューである「黄金の蜂蜜酒」を飲んだりしているうちに、またもや、それぞれが、奇怪な記憶を思い出す。
「初号機のパイロットだった」
「ウィルマース財団という、邪神対策組織があって……」
「交戦規定を確認」
2008年のラヴクラフト観光ツアーなのに、どうもおかしい。
そのうち、トイレに立つと、なぜかそこに、海水に濡れた溺死体のような「インスマウス人」が……
何気ない風体を装って、トイレを脱出。
ウィルマースの本部に電話をかける。
「やつらを見つけた!」
「まず、2ブロック離れたまえ」
「離れた後は?」
「その時点で、敵の位置を正確に報告するため、電話を」
「今、電話しています」
「では、さらに1ブロック離れて、安全な壁の後ろに隠れること。
両耳をふさぎ、口をあけて、衝撃に備えろ」
その頃、柔道家は、自分が策敵用人造人間ナザディであることを思い出し、手の中に謎の銀色の銃めいた「レーザー・マーカー」を発見していた。
人間を装い、空港ターミナルを徘徊する「深きもの」に向かって、レーザー・マーカーを発射。すると、静止軌道上の軍用衛星が機動、プラズマ・ライフルでターゲットを消滅させた。
●美人ガイド
不可解な閃光とか、夜空を飛行する巨大な「赤い目」とか……
色々つじつまの合わないまま、朝を迎えた一行は、朝一の国内線でボストンへ。
到着したところで、ガイド兼通訳兼ドライバーとして待っていたのは美人のお姉さん。その名前は……
アセナス・ウェイト。(『戸口にあらわれたもの』)
ラヴクラフト作品に出てくる魔女の名前ですが、気にしないことに。
早速、彼女の案内でプロヴィデンス観光へ。
ラヴクラフトの生家の跡地に立ったスターバックスで記念写真を撮ったり、晩年の家や周辺の散歩道をぐるぐる回ったりした後、本日のホテルへ。場所は海沿いにある……。
『ギルマン・ホテル』(『インスマウスの影』)
夕食には怪しい深海魚が出たため、『シャワーが出ない』とか『かぎがかからない』などのイベントの前に、レンタカーで脱出する。
●丘の上
ミスカトニック大学を目指して出発したものの、アイルズベリイ街道で曲がり角を間違え、気づくと、ドーム上の丘の間の田舎道を走っているレンタカー。
ついでに、丘の上では、なにやら炎がちらつき、周辺にはおぞましき悪臭が漂っている。
「アイルズべりイ街道で道を一本間違えた」(汗)
「ドーム上の丘」
「ここ、ダンウィッチだ」
「今、アーカム・ホラーの拡張マップが追加されました」
「誰か、何か召喚している」
「戸口の向こう側から何かが~」
「ヨグ=ソトホースは見えない。ただ、悪臭によってのみ……」
車が草むらに突っ込む。レーザー・マーカーを握ったナザディが発狂して、衛星砲を乱射。さらに、ギルマン・ホテルで深界魚に当たった栄養士が、見えない何かの邪気にあてられ、自殺願望に取り付かれる。背後では、見えない巨大な存在が……
●敵か味方かピーボディー
何とかダンウィッチを脱出し、アーカムに戻ってきた一行は、ミズカトニック大学病院に逃げ込むが、出てきたのは、ピーボディー教授(『狂気の山脈にて』)。カスタネットをカタカタ鳴らしたり、どこか言動がおかしい上に、連れ込まれた診察室には、銀の円筒がたくさん並んでいる。
そして、衝撃の発言が。
「今日の当直医は、ハーバート・ウェスト君だから」(「死体再生者」)
一同「会いたくないです」
●偉大なる夢の道
どうやら、自分たちが2008年の実際の住人ではなく、2085年から夢の力で現代にやってきた未来のエンゲル・パイロットと指揮官、偵察用の合成人間ナザディであることが分かった一行は、アーカムの夢を脱出するため、銀の鍵を握り締め、エンジェル通りを走って、再びラヴクラフト晩年の家へ。
そこで、ラヴクラフトの助けを得て回復した一行は、夢の国への階段が隠されたスワンプポイント墓地へと向かう。
途中、ナザディが夢の迷路で迷い、ミ=ゴに襲われたり、、HPLの墓に隠された夢の階段を77段下って、夢の世界に隠してあった人型決戦兵器「エンゲル」初号機、弐号機、および支援メックに到達した。
アセナス=ウェイトの幻覚でだまされそうになったり、支援メックドライバーがニャルラトホテップに取り込まれたりしつつも何とか「エンゲル」を起動、D機関を使用して巨大なアルカナテック・スポーンを撃破する。ニャルに支配された支援メックは、ナザディが飛び込み、内部で「生きている炎」クトゥグアを召喚したため、太陽表面温度にも等しい炎を受けて、ニャルとナザディごと瞬間的に蒸発した。
生き残ったエンゲル2機と指揮官は、D機関の最後のパワーを注ぎ込んで、夢幻世界からの脱出を図るが……
キーパー「1/2で、Dreaming」
初号機「成功」
弐号機「失敗」
指揮官「失敗」
●ENDING 2085
地球軌道上。
ジ・エンドレス・ワン「ニャルラトホテップ」の化身(アヴァター)と思われる、黒い巨大物体と交戦後、時空面から消滅した、試作人型決戦兵器「エンゲル」の初号機、弐号機および支援メックであるが、消滅から約5時間
45分後、静止軌道上に、初号機が再出現し、回収された。それ以外の人員および機材の痕跡は以前、消滅したままである。「エンゲル」初号機の格闘戦用武装「プラズマ・ソード」に、非人類的な改造が施されていたが、パイロットの意識に混乱が見られるため、彼らに何が起こったのかは、まだわかっていない。
●ENDING 2008
「ここがHPLのお墓です」
アセナス・ウェイトは二人の日本人に、スワンプポイント墓地の内部を案内した。二人は、このマイナーな作家の大ファンらしく、感動を隠せないようだった。
「では、午後は、魔女の家と、フェデラル・ヒル教会の見学です」
二人のツアー客を乗せたアセナスの車は、アーカムの街路をなめらかに走り出した。
~FIN~
付記:あくまでも本シナリオは、朱鷺田祐介の与太です。
『クトゥルフテック』の内容も、セッションのノリでかなり本来のものと変えてありますので、あらかじめ、ご理解ください。