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July 10, 2011

ファイアウォールへようこそ:エクリプス・フェイズ紹介(その2)

 「エクリプス・フェイズ」の紹介その2。まあ、ゆるゆる行きます。

 この連載は、7/30の「Eclipse Phase体験会」でGMするための、復習的なものです。7/16-18の北海道遠征にも持ち込む予定なので、夜の部あたりで遊べればと思っております。

●SFホラーの世界

 さて、前回、「エクリプス・フェイズ」は宇宙冒険SF-RPGだと書きましたが、同時に、ホラーと陰謀の要素が含まれた作品でもあります。
 どことなく、映画「エイリアン」を思わせる謎の宇宙服と機械触手、宇宙ステーションが描かれたカバーにも「The Roleplaying Game of Transhuman Conspiracy and Horror」(トランスヒューマン時代の陰謀と恐怖を扱うRPG)と書かれています。システム的にも、精神的なトラウマやストレスに関するルールがあり、「クトゥルフ神話TRPG」に似た部分もあります。

 実は、宇宙版「クトゥルフ」なの? という受け取る人もいるかもしれませんが、それも少し違います。

 いわゆるSF-RPG、というと、私も昔、「パラダイスフリート」を作りましたし、現在もサイバーパンク・ファンタジーの「シャドウラン」に関わっていますが、実は、SFにはホラーの側面があります。SF設定をきちんと追求していくと、ある種の「想像したら怖い技術社会や超科学、異星人や人類自身が産み出した悪夢」と直面せざるを得ません。例えば、「フランケンシュタインの怪物(科学技術による、人間の創造)」や「ロボット(機械と人間)」は容易に恐怖の存在となります。

 「エクリプス・フェイズ」でも、「人類殲滅を決意した戦闘AI、ティターンズの戦闘機械」や「外宇宙から持ち込まれたらしい謎のウイルス」がそうした恐怖の対象と見なされていますし、あるいは、「ハイパーコープが発明した先端技術の結晶や、パンドラ・ゲート(次元の門)のかなたから持ち込まれた宇宙文明の遺産が暴走する」場合もあります。

 また、「エクリプス・フェイズ」は、「魂(Ego)」がデジタル化され、「義体(モルフ)」を自在に交換できる世界です。この結果、様々な恐ろしいシチュエーションが発生します。
 例えば、「エクリプス・フェイズ」のオープニング小説「Lack」(欠落)は、主人公が新しい義体に魂をダウンロードされて目覚めるところからスタートします。どうやら、主人公とその仲間たちは、「ファイアウォール」のエージェントとして、何らかの任務に挑み、おそらく、死亡したのでしょう。主人公は、なぜ、自分たちが死んだのかを自問自答しながら、「ファイアウォール」の指示に従い、前の自分達が失敗したのかもしれない新たな任務(?)に挑戦します。 「へびつかい座ホットライン」というSFをお読みになった方なら、イメージがわくかもしれません。あるいは、「キルン・ピープル」などでもかまいません。

 こうしたSF的な恐怖と戦うのも、このゲームのテーマのひとつです。

●陰謀の要素:コンスピラシー

 もうひとつのテーマが「コンスピラシー」(陰謀)です。

 現実がそれほど簡単なものでないことは、誰にでも分かっています。そのため、ゲームであっても、少しでもリアルな世界設定を考えていった場合、そこには、国家観の対立や政治信条などの食い違い、しばしば、利益追求のために踏みにじられる正義や平和などといった社会の闇の要素が組み込まれていきます。時には、まるで陰謀論そのもののような秘密の策謀やスパイゲーム、残虐な軍事ミッションすら求められます。
 それらは決して表に出ない闇の動きであり、近年、「コンスピラシー物」として、さまざまなSF-RPGに組み込まれています。例えば、「エクリプス・フェイズ」の開発者であるロブ・ボイルがライン・ディベロッパーを務めていた「シャドウラン」では、大企業同士の暗闘の最前線で戦うフリーランサーであるシャドウランナーが主人公で、失敗した際には「存在しないはずの存在」として、依頼人から切り捨てられる存在です。(このあたりは、「スパイ大作戦/ミッション・インポッシブル」にある「なお、この件に関して、君、もしくは君の仲間が捉えられたり、殺されたりしても当局は一切関知しない」という宣言に近い「お約束」なのですが。)

 サイバーパンクの発展として、「陰謀論的な世界の前線で戦うヒーロー」の時代が来ているのです。

 「エクリプス・フェイズ」のPCたちも、さまざまな陰謀と戦うことになります。
 「エクリプス・フェイズ」の太陽系に散らばる無数の宇宙居住区は、経済資本主義と社会秩序の過酷な実験場になり、それぞれがさまざまな信条を抱え、あるいは、生存のために模索しています。時には、表に出せない形でさまざまな行動をします。それは、奇妙な根回しであったり、違法行為であったり、隠された軍事行動であったりします。PCたちは、そうした各国の陰謀の網の一部に触れ、あるいは、陰謀を突き止め、それらが「人類の絶滅を招くリスク」を抱えていた場合、それと戦うことになります。例えば、

・ハイパーコープ(超企業):利潤のために、危険な状況を引き起こしたり、異星人やティターンズに由来する危険な技術を乱用したりします。 ・国家や勢力:太陽系に存在するさまざまな勢力が、人類全体のことを考えず、互いに争いあい、自らの都合を押し付けあったり、市民を搾取したりしています。 ・パンドラ・ゲート:銀河の彼方につながる次元ゲートです。そこから流入する異星人の技術が危険であったり、逆に、この次元ゲートを巡って暗闘や軍事行動、テロなどが繰り広げられたりします。 ・ティターンズの遺物:人類を破滅に導いた戦闘AI、ティターンズは消滅しましたが、その遺物である戦闘ロボットはまだ多数残っており、その技術や謎を巡って各勢力が暗躍しています。

 こうした陰謀を暴き、よりよい未来を目指して戦うのも、「ファイアウォール」の任務です。

●ファイアウォールの謎

 さて、PCは秘密組織「ファイアウォール」のエージェント「センチネル」となって、「トランスヒューマンに振りかかる絶滅の危機=エクスティンクション・リスク」と戦うと書きましたが、さて、この「ファイアウォール」とは何でしょうか?

 実は、よく分かりません。

 「ファイアウォール」は、謎の秘密組織で、PCたちのような構成員が社会のさまざまな場所に入り込み、必要に応じて呼び出され、チームを組んで「絶滅の危機」と戦うことになります。

 正義の味方?

 残念ながら、この時代における正義の概念はあまりにも多様化していて、「ファイアウォール」という謎の組織の目的が、正義とは見なされないことも多々あります。いくつもの法域では、違法組織と見なされていますし、多くの場合、国家がその存在を認めていませんので、都市伝説に過ぎないものとして、ほとんどの人が「ファイアウォール」の存在すら知らずに暮らしています。

 さらに、「ファイアウォール」の活動の中には、「大を活かすために、小を殺す」ような行為がしばしばあり、ハイパーコープ(超企業)やハビタット(宇宙居住区)に対するテロやサボタージュ、暗殺や強奪なども含まれます。もしかすると、ある宇宙船を守るために、いたいけな少女(おそらく、異星起源の危険なウイルスに感染)をエアロックから宇宙空間に放り出すような決断を迫られるかもしれません。

 組織の形態も秘密です。ルールブックにそれなりの説明はありますが、後半の「Game Information」に書かれた裏設定は、GMオンリーの秘密設定になっています。私が初版「ブルーローズ」で「秘匿情報」に指定したような背景設定で、ゲームを通じて少しずつ明らかにされるべき秘密設定だと思ってください。

 PCが知る範囲で言えば、前述の通り、「ファイアウォール」は「人類絶滅の危機と戦う秘密組織」であり、その全貌は謎に包まれています。慎重に構成された緩やかなネットワークで、PCがその全貌を知ることは、まず、出来ません。これは、敵の攻撃から組織を守るためです。それぞれのエージェントはメールなどでひとりずつ秘密裏に勧誘され、「バックアップからの復活保証」「資金や装備レベルの支援」などを条件に、エージェントになります。多くの場合、プロクシイと呼ばれる連絡役としか接点がなく、ミッションごとに、状況に応じたメンバーでチームが構成されます。
 義体も、任務に合わせて選ばれます。この時代、通信によるデータ転送は無限大のものにまで拡大しており、光速を超える「転送/Farcast」も可能になっているので、招聘されたエージェントが、「魂(Ego)」、あるいは、そのコピー(Fork)だけ現地に飛ばし、現地で義体にダウンロードして任務に当たるということもよく行われます。

 このあたりは独特の設定ですが、同時に、ゲーム的な効果もあります。

・PCが死んでも、バックアップがあれば、復活できる。(義体への再DLはしばしば精神に強い負担を与えます)
・物理的な距離を超えて、太陽系全土で活躍できる。
・状況に合わせて、外見や機能を乗り換えていける。
・必要があれば、コピーを同時に活動させることすらできる、(記憶や意志の再統合は、強い精神ストレスを生じますので、濫用にはご注意を)

 このあたりは、ゲームとして遊ぶためのご都合主義も含まれていますが、「人類絶滅の危機と戦うエージェント」を遊ぶためのギミックだと思っていただけるとたすかります。

●付記

 PCが「ファイアウォール」のエージェントとなるのは、あくまでも、デフォルト・キャンペーン設定(基本型として、デザイナーが推奨するパターン)になっています。ルールブックとしては、「エクリプス・フェイズ」の設定を生かした、どのような遊び方も、ユーザーの自由となっていますが、朱鷺田としては、それはあくまでもやりこんでからのものだと思いますので、この紹介記事では、プレイのイメージがわきやすい「ファイアウォール」から始めています。

 次回はできたら、コンベンションでゲーム告知に必要そうな、「サンプル・キャラクター」とか、「世界観」の話がしたいですねえ。

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