ファイアウォールへようこそ(20):エクリプス・フェイズ:タコはサイボーグの夢を見るか?
「エクリプス・フェイズ」の紹介20。
この連載は、朱鷺田祐介が「エクリプス・フェイズ」をGMするための覚書的なものです。「エクリプス・フェイズ」は、「シャドウラン4th」のライン・ディベロッパーだったロブ・ボイルが作成した最新SF-RPGです。詳しくは、「エクリプス・フェイズ」関連エントリーを参照してください。
おかげ様で翻訳決定
未訳RPGの紹介ということで、手探りでやっている部分が多々ありますので、訳語の揺れはご容赦ください。
R&Rステーションで、体験会が予定されています。次回は11/19(土)を予定。
今回から、しばし、サンプル・キャラクターを紹介しながら、「エクリプス・フェイズ」の世界の四方山話をしていこうかと思います。
●サンプル・キャラクター四方山話:メルクリウスの盗掘屋/ Mercurial Scavenger
ああ、拳で這い回る馬鹿猿でも捕まえようって類の罠だねえ。 でも、私の優れた身体は、容易にすり抜けられますよ。 ---メルクリウスの盗掘屋/ Mercurial Scavenger
7月からR&Rステーションで、「エクリプス・フェイズ」の体験会が始まり、内外で何度もセッションをしてきましたが、サンプル・キャラクターを並べてみると、やはり人気なのが、知性化されたタコである「メルクリウスの盗掘屋/ Mercurial Scavenger」です。
古今東西、色々なキャラクターがプレイできるRPGがあります。国産ですら、鮭だの、雪だるまだの、都市伝説だのがプレイできるゲームがある訳ですが、基本ルールのサンプル・キャラクターにタコが載っているというのはさすがにレアでしょう。
それも知性化されたタコですよ。
「エクリプス・フェイズ」は多くの現代SFから影響を受けている訳ですが、「知性化戦争」を始めとする、さまざまな作品に、動物を知性化して人類の助手や友人にしようというアイデアが登場します。通常は、比較的知性が高いとされる、イルカやシャチ、あるいは、類人猿や犬が候補に上がりますが、「エクリプス・フェイズ」では、類人猿(ゴリラ、チンパンジー、オランウータン、テナガザルなど)に加えて、カラスやオウム、そして、タコを知性化しました。最近、発行されたサプリメント「Panopticon」では、イルカやシャチに加え、猫や犬を差し置いて、豚の知性化種が登場しています。
実際、タコは頭足類、どちらかと言えば、貝に近い軟体動物ですが、その知性は非常に高いと言われています。海外での実験ではタコが迷路を抜けたり、罠を外したり、瓶の栓を回して開けたりする上、見た事柄を学習できることまでが確認されています。タコは「寿命が短い」「子育てをしない」という障害があるため、個々の知性や知識、経験を子孫に伝えることができず、文明を築くには至っていませんが、下手な猿より賢いとも言われています。
これを知性化した結果、8本の作業肢を自在に操り、どんな隙間にでも入り込める狡猾な生命体が出来上がりました。その外見は、ウェルズの「宇宙戦争」に登場したタコ型火星人よりも妙にリアルで、かつ、ファンシーな生き物です。
●知性化タコの視点
あなたもまた「知性化種」の一員であるが、周囲にいる強化猿たちが様々な弱点---手足があなたの半分の数しかないとか、視覚に死角があるとか、かっちりした骨格はすぐに折れてしまうとか---を持っていることで気が咎めることはない。
---メルクリウスの盗掘屋(説明の一部)
「メルクリウスの盗掘屋」は、イラストだけでなく、非常によく出来たサンプル・キャラクターです。役割分担としては、潜入や技術関係を扱う「シーフ系」の立ち位置で、潜入、爆破などの便利な技能を持っています。回避技能がないため、戦闘を無傷で生き残るのは難しいが、所持するヘビー・ピストルは十分に身を守ることができます。母国語が日本語で、趣味が水墨画というネタっぽい側面もあり、セッションを楽しくしてくれる存在です。
知性化されたタコの視点が明示されていて、「人間はよく分からないよね」とか(どこぞのマスコット・キャラもどきのように)ぼやきながら、いかにも、SFらしく、人類とタコの違いをロールプレイできるのは、最大の魅力でしょう。実際、「タコのPCを遊びました」というだけでも、話のネタとして十分な話題性がありますが、データ的にもサポートされているのはありがたいところです。
「エクリプス・フェイズ」には、この他にも、「群体義体、つまり、機械虫の群れの上にクラウドコンピューティングして、魂を載せた犯罪者のハッカー」とか、「蛇型義体でにょろにょろ這いまわる宇宙の密輸業者」とか、「肉体のない情報生命体」とか、「太陽のコロナの中を泳ぐ宇宙クジラ」とか、イラストとコンセプトの段階で、すでにインパクトがあるサンプル・キャラクターが色々登場します。どうやってプレイするのか、というあたりもありますが、意外にも、世界を覆うメッシュの存在や、義体の乗り換えというシステムにより、それなりに活躍できるようになっています。
●タコはサイボーグの夢を見るか?
「メルクリウスの盗掘屋」は外見のキッチュさとは裏腹に、非常に使いやすいキャラクターです。技能が充実しており、「回避」をのぞけば、そこそこ充実しており、いつもは遭難した宇宙船や廃棄された宇宙コロニーからのサルベージで食べている関係で、秘密組織「ファイアウォール」が依頼してくる、エイリアンのレリック探し、禁忌とされるテクノロジーの調査など任務に適応しています。動機が「+探索 +地球奪還 +知性化種の権利獲得」であることも、冒険に参加しやすくなっています。
タコの義体は、タコ自身のクローンボディをベースにした専用義体「オクトモーフ」で、タコの柔軟で迷彩能力のある肉体をそのままに、感覚器系を強化し、電磁気、放射線などを感知できる他、医療用ナノウェアまで仕込んでいます。
装備面は、サルベージ業者らしい、センサーと工具類が中心ですが、宇宙船解体などで使うらしい超テルミット爆薬が目を引きます。解体用の高熱を発する爆薬ですが、エクスサージェント・ウィルスをはじめ、謎のナノテク兵器、疫病兵器などが蔓延するAF10年の世界では、敵や危険なレリック、時には、兵器ウィルスに感染してしまった味方や自分自身を焼き払うのに便利な爆発物として多用されがちです。
ちなみに、「エクリプス・フェイズ」は、トランスヒューマン時代の太陽系を舞台にした「恐怖と陰謀のRPG」なので、恐怖と狂気のルールがあります。エイリアンのレリックとか、反乱を起こした戦闘AI「ティターンズ」の遺産とかに接触すると、発狂してしまったりします。すばらしい「精神障害」の一覧表もあります。
では、タコが発狂したら、どうなるのか?
ちゃんと解説されています。
自らの足を食べ始めてしまうのです。
実際、現実のタコも、狭い水槽で飼育されるなどして、ストレスがたまると、自分の足を食べてしまうそうです。素晴らしい。ちゃんとSFですね。