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2007年12月 4日 (火)

永遠の冬【46】炎の再来

 憎悪こそ我が糧。
 破壊こそ我が癒し。

 戦いこそ我が定め。

 
 ウィリス11歳の夏。
 少年は、魔獣に飲み込まれ、ひとときの夢を見る。
 これは夢の続き。

 
 そして、ウィリスは黒き夢の中、ディルスより聞いた魔族の末路を思い出す。
 やがて、天空より帰還した指輪の女神が率いる巨人の軍勢が、冥界を支配する翼の王と、火龍たちを引き連れ、魔族の帝国を滅ぼすのである。

 そして、また少年の魂は夢の中へと落ちていく。

 
 予言は成就されつつあった。

 魔族帝国は内乱の末に、最後の時を迎えつつあった。指輪の女神率いる巨人の軍勢が天空より飛来し、魔族の諸侯たちが率いる軍勢が、これを迎え撃ったが、破魔の力を持つ神の軍勢は、魔族たちに恐るべき破滅をもたらしつつあった。

「結論は簡単だ。
 我らは一度、神を殺した。
 二度、殺せぬ理由があろうか?」
 吐息の大公タンキンは、自らを納得させるように叫ぶ。
「たとえ、火龍が敵につこうとも、我らは一度、火龍を討った」
 そう、レ・ドーラで火龍を殺した。
「たとえ、翼の王が冥界から現れようと、かつて、かの者を殺した短剣は今もここにあり」
 神殺しの魔王は、叫ぶ。 

「タンキン様ほど、敵の恐ろしさを知る方はおるまい」
と、不和の侯爵サードナが闇に消える。鴉と狼の群れに姿を変え、敵軍に不和をもたらすために。されど、言葉を司る指輪の女神と破魔の巨人は絶対の忠誠で結ばれ、彼の虚言が、もはや通じることはない。
「我らの働きは、戦いの前に終わっておるさ」
 陰謀家の魔族は戦場から消えたが、火龍の狂気が復讐の炎でこれを焼き尽くした。

「すでに我らは千年もの年月をこの日の分析に当てた」
 宮廷宰相、瞳の大公モーンはタンキンにささやく。
「後は任す」と犬頭の魔王は答える。
「罪名はもとより、我が胸にあり」

 
 そして、戦場では、冬翼の大公ペラギス・グランが火龍と再び対峙していた。
 青い鱗と黄金の瞳を持つ霧の龍王ファーロ・パキールが、数千年の時を経て、地上に再誕していたのである。
「殺せるならば、殺してみよ」
 一角の仮面の下で、グランは笑い返す。
 すでに、破魔の巨人との戦いで、一族の大半は討ち死にしていた。否、もはや死なぬ魔族どもに死は意味などない。正確には、切り裂かれ、貫かれ、動けぬところを、封じられていた。
  グランだけは無敵の強力と不死身の肉体でここまで戦い続けてきたのだ。火龍から奪った角があらゆる者を貫く剣となったのも彼がここまで生き残った理由であった。

 霧の龍王が真っ向から炎の吐息を吐きかける。
 だが、グランは氷の槍でそれを吹き払い、正面より火龍に突きかかる。
 火龍はふわりと舞い上がり、横合いから太い尾を叩きつけ、追いかけるように鉤爪で切り裂くが、グランの体には傷ひとつつかぬ。
「お前の心臓は美味であったぞ」
 グランは、氷の槍で火龍の鉤爪を横に逸らしながら、頭から火龍の喉元につきこむ。頭にはかつて火龍そのものより奪った一本の角が輝いている。
 火龍自身の角であれば、火龍さえも殺すことが出来る。

 されど、その角は火龍の喉に届かなかった。

 突如として、グランの瞳は光を失い、両足も翼も萎えたのだ。
「主の力なぞ、とうに見切った」と、火龍が笑う。
「かつて、我が断ち切った四面の生首をどこかに隠したのであろう。
 だが、神を侮るな」
 そして、グランは頭蓋の上から差し込まれる鋼の冷たさを感じた。
 冬翼の大公が魔族となって初めて感じた冷たさであった。
 動けぬまま、グランは火龍に引き裂かれ、踏みつけられた。
「我が角、返してもらおう」
 一本角が引き抜かれる。
 その角と仮面の下には、顔はなかった。

 同じ頃、ロクド山の奥地で、スクラ・ドゥウーラが無数の矢に貫かれ、苦悶に喘いでいた。その腕からこぼれ落ちた四面の首は破魔の槍に貫かれていた。

 時がやってきた。

 

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 夢歩きその4。
 そして、第一の封印に人々は集う。

 

 

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