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2008年4月22日 (火)

永遠の冬【50】間奏:機織り歌


 物語を紡ぐのは誰か?
 あるいは、物語に紡がされているのか?
 どちらでもあり、どちらでもなし。

 ウィリス11歳の夏は、同時に、メーア11歳の夏でもある。
 少女は、少年のいない間も日々を過ごしている。

 ウィリスとゼルダ婆が東へ旅立ってもう一月以上が過ぎた。
 グリスン谷は短い夏の盛りを迎え、畑仕事の合間に、メーアは機織りを習った。
機織りは根気のいる仕事だった。糸を機に並べ、張り、足踏みで糸を開閉させながら、杼を左右に動かしていく。一巻の布を織るのに何日もかかる単調な作業だ。
 パタンと開けて、杼を通し、パタンと閉じて、杼を返す。
 母は歌とともに覚えよという。
 足踏み機をパタンパタンと開閉させるのに合わせて歌うのだ。
 そして、一節歌ったら、糸目を整える。

 母は、祖母から聞いたという歌を歌う。

『霧と雪に祈る』

 谷の、川瀬を流れる霧は、
 眠れる龍のため息か、
 雪狼の足音か。

 ああ、あの人は今、いずこ。
 来年来月、望月の、春の宵には戻りましょう。
 社参りの御講を担って街より戻りましょう。

 山の、尾根に降る雪は
 冬呼ぶ翼の御印か、
 飛び行く姫の外套か。

 ああ、あの人は今、いずこ。
 来年来月、望月の、春の宵には戻りましょう。
 結納品の白き糸、背負って街より戻りましょう。

 ただ、私は祈ります。
 あの人が野辺に倒れぬことを。
 あの人が戦の刃に刺されぬことを。
 ただただ私は祈るのみ。

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 機織り歌はいくつもある。
 未婚の娘が、出稼ぎにいった婚約者の無事を祈る歌もあれば、通じぬ思いを託す歌もある。寂しい歌もあるが、総じて、軽快で元気な歌だ。パタン、パタンという織り機の音に合わせて、拍子をつけて歌う。機織りを教える母も傍らで声を合わせて拍子を取る。時折、近所のおばさんやお姉さんがのぞきにきて、一緒に機織り歌を歌って帰ることもある。歌詞もその場の調子で変わる。時には、近所の噂や過去の出来事を面白おかしく歌うこともある。どこぞの誰かが畑でひっくり返って泥だらけ、羊にかまれて大騒ぎ、誰かと誰かが好いたの、振られたの、村の女たちは笑い飛ばす。
 だから、メーアは寂しくなかった。
 ウィリスがいなくても寂しくはない。

「寂しい時も歌えばいい」
と、母は言う。
「そうすれば、声は届く」

 だから、メーアは機を織り、歌を歌う。

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 またもや少しずつ、再開リハビリ中です。
 次はまた、アヴァターの山へ。

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