永遠の冬【55】顕現せし真実
魔は魔である。
それ以外にどう説明すればいいのか?
ウィリス11歳の夏。お迎え役としての時を迎える。
「それ」は恐ろしい冬の力そのものであった。
《冬翼様》とグリスン谷では呼ばれた神。
あるいは、
《冬翼の大公》と魔道師学院に伝わる魔族の諸侯の一柱。
いずれにせよ。
お迎え役として地に伏せたウィリスでさえ、
「それ」を神という一言で表現していいものなのか、
ただ、「畏(おそ)れ」るべき存在。
世界の大半を圧してなお、意志を持つ「異形の神霊(もの)」。
怖い。
とても怖い。
死ぬほど怖い。
その怖さは、顔を上げることなどできない。
それでも、何かの弾みで死んでしまいそうなほど怖い。
ここに伏しているのが、ウィリス以外の誰だったとしても
きっと、すぐさま凍りついて、死んでしまったに違いない。
それほどの寒風が神の声ととこに周囲を荒れ狂い、暴れている。
それでも、ウィリスは、うれしい。
神の声は古い、古い、神代の言葉であったが、
そこには喜びがあった。
圧倒的な喜び。
切り裂かれ、奪われた自分の一部と再会した喜び。
奪われ、隠され、偽られた自らの名前を取り戻す喜び。
長き封印から解き放たれ、自ら戦う喜び。
この方を迎えるために、ウィリスはここまで生きてきた。
わずか2年前、9歳の時に「お迎え役」となった。
この2年間、ゼルダ婆とともに、修行してきたのはこの日のためだ。
そして、ウィリスは身を切るような寒風に向かって立ち上がる。
「願い」を。
「願い」を伝えねばならない。
我らが神に救いを求めねばならない。
憎悪と破壊にすべてを向ける前に。
「《冬翼様》、《冬翼様》。
小さき者の願いをお聞き届け下さい。
我らの谷を、我らが村を、飢えたる火龍よりお救い下さい」
ごううううううううう!
突風がウィリスを吹き飛ばす。
地面にしがみつくことも出来ぬまま、ウィリスは宙に浮く。
そして、それが神の笑い声だと知った。
神は喜んでいる。
復讐の時を。
戦いの時を。
「火龍!」
圧倒的な喜びの感情が爆発し、四つの顔を持つ神は巨大な翼を羽ばたき始める。
「戦いこそ我が糧」
-------
ついに、《冬翼の大公》復活であります。
次回はまた来週。
おそらくは、山々にて。
| 固定リンク