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2008年11月23日 (日)

永遠の冬【63】魂(たま)呼び


 この場所こそ我が故郷。
 それだけは決して忘れない。

メイア11歳の夏。

 それはもはや谷とは言えなかった。
 氷と雪に埋められたくぼ地。
 故郷は、すべて、凍てついた氷雪の中に消えた。
 メイアの生まれた谷はもうどこにも見えない。
 黄金の火龍とともに、凍りついてしまった。

 何が起きたか、たぶん、分かっている。

 彼は、神を迎えにいった。
 今日、この時のために。
 今、この日のために。

 そして、選ばれた結果。
 彼は神とともに、帰還し、火龍と戦い、そして、今、ともに氷雪の封印となった。

「……だから、心配しなくていいよ」

 本来ならば、身を切るような風がメイアを優しく抱く。

「村は守れなかったけれど、皆を守れた。
 メイアを守れた」

 そして、メイアは、ただひとつの名前を叫ぶ。
「ウィリス!」

「そうだ、もっとしっかり叫べ」
 背後から、鋭い叱責が飛んだ。
 振り返ると血まみれの男と雛菊がいた。雛菊自身がまとったドレスも何かに引き裂かれたように、ボロボロになっている。男は体中、傷だらけだが、微かに息をしているようだ。
「あ、あの」
 思わず、メイアが声をかけると、雛菊はさらに怒鳴る。
「どうした、もっと叫べ!
 あいつの名前を呼ぶんだ。
 そうしないと帰ってこないぞ」

 一瞬、雛菊の言葉の意味が分からなかった。
 だって、ウィリスはここに……

「そんな風みたいに悟った魂なんかすぐに消えちゃうよ。
 お前の欲しいのは、亡霊か?」

 違う。
 違う。
 違う。

 私は、彼に帰ってきて欲しい。
 きちんと手や顔を持った、あのウィリスに。

「欲しいなら、叫べ!」
 血を吐きながら、雛菊が立ち上がる。
「私なら、そうする。
 黙ったまま、奪われたりしない。
 私は」
 雛菊は、言葉を切る。

(あとは、お前次第)

 分かっている。
 あなたはきっと、私の声に答えてくれる。
 あなたがお迎え役になった時から、この日のために私もここにいた。
 呼び戻す。
 あなたを。

「ウィリス!」

 叫ぶ。

「ウィリス!」

 叫ぶ。

「戻ってきて!」

 そして、北風が舞い上がり、少年の形を取った。

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 もうすぐ終わります。
 たぶん。

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