永遠の冬【63】魂(たま)呼び
この場所こそ我が故郷。
それだけは決して忘れない。
メイア11歳の夏。
それはもはや谷とは言えなかった。
氷と雪に埋められたくぼ地。
故郷は、すべて、凍てついた氷雪の中に消えた。
メイアの生まれた谷はもうどこにも見えない。
黄金の火龍とともに、凍りついてしまった。
何が起きたか、たぶん、分かっている。
彼は、神を迎えにいった。
今日、この時のために。
今、この日のために。
そして、選ばれた結果。
彼は神とともに、帰還し、火龍と戦い、そして、今、ともに氷雪の封印となった。
「……だから、心配しなくていいよ」
本来ならば、身を切るような風がメイアを優しく抱く。
「村は守れなかったけれど、皆を守れた。
メイアを守れた」
そして、メイアは、ただひとつの名前を叫ぶ。
「ウィリス!」
「そうだ、もっとしっかり叫べ」
背後から、鋭い叱責が飛んだ。
振り返ると血まみれの男と雛菊がいた。雛菊自身がまとったドレスも何かに引き裂かれたように、ボロボロになっている。男は体中、傷だらけだが、微かに息をしているようだ。
「あ、あの」
思わず、メイアが声をかけると、雛菊はさらに怒鳴る。
「どうした、もっと叫べ!
あいつの名前を呼ぶんだ。
そうしないと帰ってこないぞ」
一瞬、雛菊の言葉の意味が分からなかった。
だって、ウィリスはここに……
「そんな風みたいに悟った魂なんかすぐに消えちゃうよ。
お前の欲しいのは、亡霊か?」
違う。
違う。
違う。
私は、彼に帰ってきて欲しい。
きちんと手や顔を持った、あのウィリスに。
「欲しいなら、叫べ!」
血を吐きながら、雛菊が立ち上がる。
「私なら、そうする。
黙ったまま、奪われたりしない。
私は」
雛菊は、言葉を切る。
(あとは、お前次第)
分かっている。
あなたはきっと、私の声に答えてくれる。
あなたがお迎え役になった時から、この日のために私もここにいた。
呼び戻す。
あなたを。
「ウィリス!」
叫ぶ。
「ウィリス!」
叫ぶ。
「戻ってきて!」
そして、北風が舞い上がり、少年の形を取った。
-------
もうすぐ終わります。
たぶん。
| 固定リンク