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2009年3月 3日 (火)

歌の龍王【04】滅びの日

黒の黒剣

一つの種。
それが汝なり。

「ほぅ」

 自室で瞑想していた青龍の魔道師ザンダルは、モーファットの空気の中に、微かな歪みを感じて、吐息をもらした。それはまるで蜂の羽音のように、どこからか魔力の匂いを届けてくる。

「これは……」

 冷たい視線、すっぱりとした切り口、白い羽根。
 それは翼人座の魔力だ。
 誰かの命の緒が一瞬で断ち切られた。
 おそらくは【死の凝視】というべきもの。

「地下から這い出してきた死霊の類とも思えない」

 死を司る翼人の魔力は決して珍しい力ではない。翼人の魔道師に限らず、モーファットの街にも死霊と話せるまじない師の一人や二人はいる。
 だが、この赤い雀蜂の毒針のような気配は、人の子ではなかろう。
 十年ほど前、水龍ティウチノスが倒されて以来、モーファットの湖の結界は弱まるばかり。北に広がる呪われた遺跡から何か忍び込んできたとしても防ぐことなどできはしない。

「さて、その何かであるが……」

 ザンダルは幻視のため、瞳を閉ざした。
 彼は決して、通火の魔道師や夢占い師のような専門家ではないので、夢歩きで街を把握したり、結界の外に魂を飛ばしたりはできない。漂う魔法の気配を感じ取るだけだ。
 さて、街を守るべき伯爵の占い師はどう動くやら。

 モーファットの城壁の奥、もっとも高き塔を持つ城館こそ、モーファット伯爵の住まいである。
 すでに、この城館では、騒ぎが起きていた。モーファット伯爵に仕える夢占い師のタガット老師が死んだのである。
「赤い瞳が!」
 これが唯一、残した言葉であった。
 ぞっとした伯爵は、市内に滞在する魔道師、まじない師、夢占い師を招集するべく、部下たちに命を下した。この悪しき呪いの原因を早急に突き止めなければならない。

「そう、来ましたか?」

 城館からのお召しを受けて、ザンダルは立ち上がった。
 この数日の気配を見るに、今、モーファットの街に魔道師はおそらく彼しかいない。となると、城の夢占い師が対応できないのであれば、青龍を見るという酔狂な存在でもましというべきだろう。

「タガット殿は何と」
「亡くなられました」
「何か言い残されませんでしたか?」
「ただ、『赤い瞳が』と」

 ザンダルは嫌な予感が的中したのを感じた。
 滅びの日がやってきたのだ、このモーファットにも。

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『歌の龍王』第四話です。
まずは、青龍の魔道師ザンダルと謎の女の行方を追いましょう。
できれば、週一ぐらいで連載したいところですが、自分でも分かりませぬ。

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