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2009年6月17日 (水)

歌の龍王【18】海へ

黄の原蛇

希望? 夢?
それは一体、何を意味するというのだ?

 目覚めると、再び河船の甲板にいた。
 ラヴィオスの龍人たちとの会見から、追い払われるように戻ってきた。ミソロンギの王城を見ると言う貴重な時間を長引かせることは許されなかった。おそらく、学院の師匠に後で詰問されることになるだろう。師匠の妖精騎士へのこだわりがなければ、ザンダルは、あれが何かさえ、きちんと把握することはなかっただろう。

 しかし……

 ザンダルは懐にしまった「赤い瞳」に触れる。
 これ自体が魔族の《策謀》とは?

 つまり、私は何をさせられているのか?

 分からない。
 だが、興味深い。

 魔道師学院に属する魔道師が三千人と言われる。
 その中の何人が、実際に魔族と出会ったり、その策謀に触れたりできるものか?
 特に、青龍座は、火龍を見つめるのが役目。
 もとより、魔族などとは縁がない。
 だが、それが定めならよい。
 《策謀》というなら、食い破ってやろう。
 火龍に比べれば、お前たちなど。

 ダニシェリアの山を越えると、モーファット河は一気に川幅を広げ、まるで湖水のように流れが緩やかになっていく。やがて、ある朝、風に潮の匂いが混じるようになる。
「海が近くなりましたからなあ」
と、船長が言う。
 海は初めてだった。
「ああ、モーファットの湖など比較にもなりませんよ」
 ザンダルは、やがて、それを実感する。
 河口に近づくにつれ、微かに響く波音が少しずつ少しずつ大きくなっていく。最初は波の音とさえ分からなかった。
 知識として、海については学んでいた。
 だが、轟々たる波音が四方から身を包むように響き続けるのは別の体験だ。
 耳ではない。体の全体に響いてくる。

 ああ、これは海か?

 そして、ザンダルの耳に別の声が響く。

「戦いの角笛が響く。
 戦いの狼煙が上がる」

 それは果てしなく広がる海から響いてきた。

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『歌の龍王』第十八話です。
 ザンダルは、海に辿りつき、南海の魔物が目覚めます。
 次は来週以降に。

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