歌の龍王【19】波の騎士
*
白の風虎
我は忘れぬ。
我は諦めぬ。
我は追い詰める。
*
それは果てしなき海の彼方から聞こえてきた。
青龍の魔道師ザンダルは、波の声に呑まれていく。
*
夢を見た。
いや、ずっとずっと長い夢を見てきた。
あれからずっとこの青い青い海の中で夢見てきた。
あれから?
思い出せない。
たぶん、重要ではないはずだ。
そう、夢を見ていた。
波の音に揺られ、海を漂ってきた。
時折、小さな人の子どもが操る船が上方を通過していったが、気にもならなかった。
海は静かで、優しく、嵐であっても、深き底に沈めば気にもならない。
そう、ずっとずっと夢を見ていた。
だが、銀の光がやってきた。
「波の騎士もすでに老いたか?」
そう、私は波の騎士。
青く猛き魔族の騎士……
「目覚めに備えよ」
銀の光は海の上からささやきかける。
ああ、もうすぐ……
*
「旦那、旦那、もうすぐ港ですぜ」
船乗りの声がザンダルを目覚めさせた。
あれは、一体、何だ?
波の騎士?
もしかして、海に封じられた魔族の夢か?
銀の光は何だろう。
ザンダルは、どこか惚けたような気分で、頭を振る。
ここで沿岸航路の船に乗り換える予定だ。
時間があれば、調べ物をしたいところだが、書物は皆、モーファットに預けてきてしまった。
「もう着きましたぜ、旦那」
船乗りの声に促されて立ち上がる。
槍と鞄を持ちあげて、渡り板で波止場に降りると、潮風がむっと体を包む。ざわめく波音がずっと響いている。
「あなた様こそが御使い」
波止場に立った娘が声をかけてきた。
青く薄いローブは、まるで海の色だ。
「ようこそ、始まりの港ラズーリへ。
我がゲグに仕えし者は、あなた様を歓迎いたします」
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『歌の龍王』第十九話です。
ザンダルは、海に辿りつき、南海の魔物が目覚めます。
次は来週以降に。
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