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2009年9月12日 (土)

歌の龍王【27】海王(承前3)

緑の古鏡

物事はすべて諸刃の剣。
自分に向く時がいつか来るのだ。

「これらを魔族との戦いに用いられるというのか?」
 ザンダルは、ウィンネッケに言う。
「魔族の宝玉ですぞ?」
「だが、そこにまぎれもなく強い魔力がある」
 ウィンネッケは躊躇いのない口調で答える。
「ことに《スゴンの赤き瞳》は、龍を殺すために蓄えられた死の力。
 魔族の眷族を追い払うだけの力があろう」
 それは間違いない。
 だが、それを使用すれば……
「スゴンの封印をさらに解放することになりかねない」
 ザンダルは明言し、闇の海の海王に抗議する。
「おそらく、それが目的であろうな」
と、獣頭の海王は答える。闇の海で人ならぬ異形に変じたこの海王は、海の魔性に関する限り、魔道師に比肩するばかりの知識を持っている。彼は闇の海で何を見たのだろうか?
「貴殿はさきほど、貴殿がこの宝玉を持って旅すること、それ自体が魔族の《策謀》の一環と言われた。龍人の予言とあれば、無碍にもできぬ。
 おそらく、この場で《津波の王》の下僕に対して、それを用いるのも、魔族《策謀の統領》が用意した罠かもしれぬ。
 では、貴殿はどうする?」
「私は、この宝玉をグラム山の魔道師学院へ運び、厳重に封印いたします」
「さて、それは正解かね?」と、ヨーウィーが言う。
 炎の海より警告を持って帰還した海王は、ザンダルをじっと見つめた。
「どうなると思うかね、魔道師殿」
「封印がよろしくないと言われるのですか?」
「いや、結果は多分、問題ない。魔道師ならば誰もがそう結論付けるだろう。
 だが、その過程において、貴殿は魔族《赤き瞳の侯爵スゴン》の復活を触れて回ることになる。この南海、あるいは、中原に封じられた魔族たちに」
 ザンダルには言い返す言葉もなかった。
 港町ラズーリで、さっそく海の邪神ゲグに仕える者たちと出会い、ゲグ、すなわち、《波の騎士スボターン》の覚醒に出会った。
「そして、最終地点はグラム山の魔道師学院だが」とウィンネッケ。「そこで無事、封印できればよいが、逆に言えば、グラム山に《スゴン》が出現するかもしれない」
「貴殿は体のいい飛脚にされておるのかもしれんよ」とヨーウィー。
 ザンダルは、黙って唇を噛み締める。
 分かっていたかもしれない。
 想像していた。最悪の可能性として。
「気を落とすな、若いの」と、アイオロスが言う。「陰謀を仕掛けるという点で魔族にはそう簡単には勝てん。だが、罠があるのが分かれば、まだ戦いようがある。何のために、この場に世界最高の船乗りが6人も顔を揃えていると思っているのじゃ?」
 そう、ザンダルの前には、世界に広がる八つの海を支配する海王の内、6人までが顔をそろえていた。
 風の海のカーディフ、光の海のザラシュ・ネパード、闇の海のウィンネッケ、炎の海のヨーウィー、渦の海のルーニク、そして、果ての海のアイオロス。
「船に乗っていれば、最悪のことなどいくらでも起きる。嵐が来る。風がない。水がない。食べ物がない。目指す島が見つからない。時には、部下が飢えて死ぬのを見つめなくてはならない時もある。果てしない海で彷徨い、三日も風がなければ、屈強の船乗りだって頭のおかしくなる奴すらいる。何もなくても、マストから落ちて死ぬ奴は必ず出る。
 それでも、海に出るのが船乗りだ」
 アイオロスの言葉に他の5名の海王たちが揃ってうなずく。その姿はそれぞれ違うが、目に宿る強い光が共通している。
「魔族が解放を求めて、わしらの街ごと罠にかけたのであれば、よかろう。ただでは解放してやらん。働いてもらうさ。ウィンネッケの言うのはそういうことだ」
「そして、そのまま、そいつには深き海底に沈んでもらえばよい」
 ウィンネッケが笑い、獣の唇から剣歯が覗いた。
「《スゴンの赤き瞳》を海に沈めると?」
 ザンダルにはなかった発想だ。
「このまま、魔族の《策謀》通り、飛脚をするよりもずっとよいではないか?」

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『歌の龍王』第二十七話です。
 JGC回りで少々間があいてしまいました。
 次は来週以降に。

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