歌の龍王【31】風の都
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赤の海王
ここまでは我が導きで来た。
後は汝が選ぶ道なり。
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南方半島と中原の境となる谷を抜けると、そこはユパ王国であった。
温暖な草原地帯の真ん中を一直線に来たへ抜ける神代街道は、人通りも多く、通り過ぎてゆく村々も豊かな風情であった。
ザンダルは、海の匂いがもう追いかけてこないことにほっとした。
海王の都グナイクを立ってもはや数日。最初はルーニクがクレンタス経由で河船を仕立てようか、とも言ってくれたが、もはや海で騒動を起こすのは御免だった。グラム山へ向かって中原の平地を北上する街道を旅することにした。
半島を出て、北に向かう旅は存外に平穏なものであった。
神代街道は、古来より交通の中心であり、道も整えられており、宿屋や厩も十分に存在していた。グナイクからユパへの道は交易の商隊が盛んに行き来し、治安もよかった。
やがて、牧草地が広がると、小柄な騎手を乗せた馬が走り回るのが見えた。
騎手の肌は浅黒く、黒髪で雰囲気もずいぶんと違っていた。
「ガラン族の騎手か」
ザンダルは思い出した。
ユパ王国の国王が王を名乗る前、西方草原と中原を分かつ関門領セツィの領主をしていたことがあり、ユパに移封された際、近衛騎兵隊として、西方草原の騎馬民族、ガラン族がセツィから連れてこられたと聞く。そのせいか、ユパ王国では13年に一度、《風の女王ピスケール》の大祭が行われる。次の大祭がいつだったかは思い出せないが、おそらくは風虎の年、あと2年後であろう。
「魔道師ザンダル殿ですな」
街道を北から下ってきた騎士が、馬上から声をかけてきた。
「どちらの方ですかな?」
とザンダルが問えば、騎士は剣の紋章が描かれた盾を掲げた。
「剣の公爵に仕えし騎士、コーディス・ランドール。
我が主人の命を受け、貴殿とその槍を迎えに参った」
ザンダルは、肩に担いだ槍を振り返る。正確に言えば、《赤き瞳》をくくりつけた海王の銛であるが、細かいことは言ってもしかたない。
剣の公爵と言えば、この国の重鎮である。ユパ王国は国王と、それを補佐する二人の公爵、剣の左公爵と王冠の右公爵による三頭政治が営まれ、しばしば、二人の公爵が血で血を洗う内紛を起こしてきたという。魔法の武器が国内に入ったとあれば、そのいずれかが反応するのもやむないこと。剣の公爵とあれば、おそらく、軍政を司る者であろう。
騎士コーディスに従って、街道を逸れ、牧場に面した東屋に入った。
「王都に入る前に、貴殿とお話したい点があります。
その武具を持って、我が軍を手助けして欲しい」
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『歌の龍王』第三十一話です。
お待たせしました。とりあえず、ユパ王国へと入ります。
次は年を越えて、1月初旬になる予定。
最悪、TRPG文華祭(1月9~11日)以降ということで。
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