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2010年2月 9日 (火)

歌の龍王【32】野望の姫


黒の野槌

見た目の通りとは限らない。
しばしば真実は別の場所にあり。

 ユパ王国の剣の公爵に仕える騎士コーディス・ランドールの台詞は、ザンダルにとって不思議でも何でもなかった。
「その武具を持って、我が軍を手助けして欲しい」
 予想してしかるべき事柄であっただろう。
 魔族にまつわる武器であっても、それが戦に役立つなら使う。
 そう考える者がいない訳ではない。
 いや、実際のところ、ザンダル自身がその総本山に属している。
 魔道師学院は魔法を研究する最高学府である。
 当然ながら、魔術の実践的な利用方法について最も深く研究している。ザンダル自身も青龍座の魔力により、火龍の力を一時的に得る呪文を覚えている。いや、準備さえできれば、火龍を召喚することも不可能ではない。その戦略的な意味合いは十分に承知している。
 だからこそ、スゴンの赤き瞳の矛を軍の力にしたいとする騎士の言葉はよく理解出来る。

 だが……

「お断りいたします」
と、ザンダルは答える。
「呪われしヴェルニクのこと、知らぬ訳ではございませんでしょうに」

 魔族の力を戦に用いようとする者は、過去にもいた。
 かの呪われしヴェルニクは、そうして魔族を戦略に使おうとしたために滅びた。巨人の七王国のひとつであったヴェルニクは、他の王国との戦争に勝つため、魔族《赤き目の侯爵スゴン》を召喚し、その力を借りようとしたのだ。だが、《スゴン》の力を制御し切れずに国は死に絶えた。他の六つの王国が滅びた国に巣食う魔族を七重の封印で封じ込めたのだ。
 《スゴンの赤き瞳》を穂先とする矛を戦に用いるのは、ヴェルニクと同じ轍を踏むことになりかねない。ただでさえ、《スゴン》の封印は残り少ないのだから。

「やはり、あなたはそう言われるのですね」
 東屋の奥の扉が開き、女性の声が響いた。
 ザンダルは、その声に聞き覚えがあった。
「カスリーン姫」
 見れば、そこにいるのは金髪の妙齢の女性である。ドレスの上から篭手をつけた姿は勇ましくも不可解な姿であるが、ザンダルは驚かなかった。
 かの姫こそ、剣の公爵の次女、黒鉄の姫カスリーンである。
「お変わりなき様子。
 ご無沙汰しております」
と、ザンダルは頭を下げる。
「あれから5年か」とカスリーンが言う。
「これは定めだ、ザンダル」
 見下ろすその瞳は強い意志に輝いている。
「お前は、私のために戦う定めなのだ」

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『歌の龍王』第三十二話です。
 お待たせしました。カスリーンの描き方でジタバタしているうちに時間が過ぎてしまいました。次回は今月中になんとかしたいところ。

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