歌の龍王【39】龍骨の野(1)
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黒の戦車
反逆者には炎をもって、戦わん。
一同、情けは無用ぞ。
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やがて、大きな砦が見えてきた。
石垣と板塀を巡らせた大型の砦だ。塔があれば、城と言えないこともない。
東方国境の中核を担うラグレッタ砦はほとんど起伏のない荒野の真ん中にある。地の利を選ぶことのできないまま、国境線を維持するために作られた戦線の中心を担う。
「だが、ガラン族騎兵を主力とするなら、このくらいの方がいい」
ザンダルは判断する。
広大な平原のど真ん中の城砦は、地形に頼って敵の侵攻を防げない。どちらかと言えば、巡回する騎兵隊の活動拠点や兵站の経由地に過ぎず、国境防衛隊は城砦から離れた場所で敵を迎え撃つのが基本的な戦術となる。
そうやって少しずつ周囲の敵勢力を駆逐し、1日の行軍で移動できる先のあたりへさらなる砦を建設していく。それは5年前、ザンダルがカスリーンに授けた策であるが、5年間の間に、カスリーンはそれを成し遂げる体制を作り上げた。ラグレッタ砦に集められた多くの資材と兵員はその証拠だ。
すでに次の砦建設場所は目星がつけられていた。
レ・ドーラの荒野の外れである。
そこから先は、龍の骨が散乱する忌まわしい荒野だ。
土鬼どもでさえ、あまり近づかない。
「ゆえに、つけ込む余地がある」
ザンダルはつぶやく。
(狂気の沙汰ではないのか?)
ふと、疑念が過ぎることがない訳ではない。
だが、ここまで戦線を伸ばさねば、カスリーンの道は開けない。
(レ・ドーラ)
かつて、青龍座の魔道師ゆえに、ここへ来た。
龍の骨を拾い、風に舞う火龍の亡霊たちが上げる怨嗟の遠吠えを聞いた。
遥か古代の戦いの憎悪が今も残る場所。
龍の血肉が染み付いた戦場。
そこへさらに人の子と土鬼の血肉をばらまこうというのか?
(それこそ、ドレンダルと変わらぬな)
それに答えるように、また、風の中で火龍の声が響く。
コーディスとストラガナ侯も居心地の悪そうな顔をする。
いやな予感が漂う。
「だが、進まねばならぬ」
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『歌の龍王』第三十九話です。
カスリーン姫の野望に加担すると覚悟を決めたザンダルは、レ・ドーラへと向かいます。
短めでも続きをかいていきたいと思っています。
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