« 歌の龍王【40】龍骨の野(2) | トップページ | 歌の龍王【42】龍骨の野(4) »

2010年4月 5日 (月)

歌の龍王【41】龍骨の野(3)

黄の八弦琴

伝説こそ語るべし。
なぜなら、皆を導き、希望を与えるから。

 しばし、沈黙が落ちた。
 ラグレッタ砦の城壁の上、職人頭のキリクと青龍の魔道師ザンダルは、言葉を紡ぐのを止めていた。騎士コーディスもまた何も言わない。そういう時に控えているべきことを理解している男だった。
 レ・ドーラから風が吹いてくる。微かな龍の遠吠えは死んだ龍たちの亡霊の声か。笛のようにも、かすれた嗚咽のようにも聞こえる。
「乾いた風だ」
 やがて、コーディスが呟く。
「荒野そのもののようだ」
「それもまた変えます」
とザンダルが言う。
「水路の件だね」と職人頭のキリクが確認する。
「モーファットからユパまで水路を引くそうだね」
「それがカスリーン回廊の次の姿です」
とザンダルは答えた。
 レ・ドーラは不毛の荒野だ。今も龍の死骨が散乱するだけで、何も生み出さない。そこにはほとんど植物も生えず、ただ乾燥した風が吹くだけだ。
 今まで、誰もモーファットまでの荒野を征服しようとしなかったのには、レ・ドーラの気候に問題があった。農地として開拓するには水が足りない。軍馬を養うにも草が少ない。何もかも持ち込みでは話にならない。

 だが、水があれば、どうだろう。

 幸い、モーファット河の水量は多いし、アラノス湖の西岸はあまり開拓が進んでいない。以前、モーファット伯爵に灌漑水路の建設を献策し、好感も得ている。
 あとは少々の資金と将来の利益だ。

「あんたら、魔道師というのは考えることが果てしないな」
と、キリクが呆れる。「何年かかるやら?」
「我らの生きている間には終わりますまい」とザンダルが答える。
「着工までに解決するべき問題が残っていますからね」
 そこでザンダルは、東北を指さした。
 彼方に、何か土埃が立っている。
「ストラガナが何か見つけてきたようですね」

 もちろん、ザンダルの目には、さらなるものが見えていた。
 巨大な棍棒を構えた野蛮な巨人たちの群れ。
 土鬼の部隊だ。

「土鬼の襲撃です」
 魔道師の言葉に、コーディスがうなずき、城壁の内側に向かって叫ぶ。
「敵来襲! 土鬼だ!」
 答えるように、見張り台の兵士が角笛を吹く。
 城砦の内外が一気にざわめき始める。
「弩を用意しろ!」
「歩兵隊、集合!」
「弓兵隊、城壁へ!」

-------------------------------------------------------
『歌の龍王』第四十一話です。
 短めでも続きをかいていきたいと思っています。

|

« 歌の龍王【40】龍骨の野(2) | トップページ | 歌の龍王【42】龍骨の野(4) »