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2010年4月13日 (火)

歌の龍王【42】龍骨の野(4)


黄の戦車

我が運命は間もなく終わり、
時代は変わっていくだろう。

 その巨人の亜種たちは土鬼(ローグル)と呼ばれている。
 妖精騎士の前の時代を支配した真の巨人たちは、人の子の十倍に達する背丈を誇ったが、今日、土鬼と呼ばれる亜種は人の背丈のニ倍ほどに過ぎない。人に比べて、肩幅が広く、顔も何もかもが横に平たい。巨人種の常で四肢は恐ろしく太く、筋骨がしっかりとしている。服は巨大な獣の毛皮を縫い合わせたのか、それとも何かを織ったのか、茶色い腰布を除けば、ほとんど何もつけていない。大地のような黄褐色の肌、少し濃い茶色の髪と瞳だ。人の形はしているが、野蛮で凶暴な気配を漂わせている。
 武器は大木をそのまま乾燥させ、鉄輪で固めたような巨大な棍棒だ。これを片手でしっかりと持っている。さらに、馬車の車輪より大きな円形盾を構えている。
 数は百余り。
 人の子の兵ならば、砦を攻めるには全く足りない数であるが、騎馬武者よりも大きい土鬼どもの戦士百となれば、話は違う。その内、半分でも城壁の中になだれ込まれたら、城砦は壊滅する。
「殺せ!」
 土鬼語の叫びが放たれる。
 土鬼どもは、円形盾と棍棒を頭上にを掲げて突進してきた。
「打て!」
 守備隊長ボルスの叫びとともに、城壁から弓弦の音が弾ける。まるで鳥の鳴くような甲高い風斬り音。続いて、やや重い大弩が放たれる音が続く。
 山なりに打ち出された多くの矢が土鬼たちの頭上に舞い降りるが、その大半は円形盾に阻まれる。時折、土鬼の頭や肩に突き刺さることがあっても、それではやつらの厚い皮を貫き切れないのか、倒れた者はまだわずかだ。
 それでも、大弩の直撃を受けた土鬼はさすがにその場に倒れる。
「手を止めるな!」
 叫びを打ち消すように、弓音が繰り返され、十本以上の矢に貫かれた先鋒の土鬼たちがやっと倒れて行く。
 数台の大弩は休む間もない。
 それでも、土鬼たちの被害はまだ数えるほどだ。
 8割以上の土鬼たちは、そのまま城砦の前の柵へと突っ込んでくる。
「槍歩兵隊、突け!」
 柵の前に突進してきた土鬼に向かって歩兵隊が長い歩兵槍の穂先を揃えて突き出す。槍衾に貫かれ、土鬼の血が大地にはじけ飛ぶ。だが、それで終わる訳ではない。土鬼たちは突き出された歩兵槍を巨大な盾と棍棒で叩き折り、柵そのものに体当たりする。さらに、柵に手をかけ、乗り越えようとする。そういう時は、槍歩兵の中に混じった斧槍使いが飛び出し、柵に取り付いた土鬼に一撃を食らわせる。斧槍の華美な輝きがきらめくと、近くの槍歩兵たちがそれを追うように、柵の土鬼に槍衾を突きつける。
 そうやって、柵のあたりは土鬼どもの墓場になっていく。
 それでも、戦いは終わらない。
 やがて、柵が傾き、乗り越える土鬼が出てくる。一人目は、斧槍使いが迎え撃つ。だが、二人目はその棍棒を振るって兵士をなぎ倒す。歩兵槍を折られ、腰の剣を抜いても、土鬼の棍棒から見れば、無いも同然だ。槍衾で倒れるまでに4、5名の兵が打ち倒される。
「第五柵、引け!」
 角笛が響き、柵の一角から後退が始まる。
 一段後ろの柵まで後退するのだ。
 抜かれた柵に飛び込んだ土鬼はそのまま前に進むが、そこで左右から歩兵隊が槍を突き出す。土鬼の先鋒がまた倒れた。それは罠だった。

 一方、弓兵たちは土鬼の二陣目に向かって弓矢の雨を降らせ続ける。人の子の矢が一本当たっても土鬼を殺すことはできないが、十本当たれば、倒れる。柵に届いた時、柵を越える力が残っていなければ、歩兵が楽になる。

「よい動きだ」
 ザンダルは城壁の上でうなずいた。
 守備隊長は、柵をうまく使って戦っている。
 すでに土鬼の3割は倒した。
 残る土鬼たちにも多くの矢が突き立っている。
「もう一押し」

 土鬼の群れがあらかた柵に届いたところで、新たな角笛が響いた。
 すると、馬蹄の響きが城砦の反対側から響いてくる。
 見れば、ガラン族の騎兵たちである。
 先頭にはストラガナ侯とガンツがいる。手には短弓が構えられている。
「打て!」
 土鬼たちに向けて矢が放たれる。
 背中から射られて、また数名の戦士が倒れる。
 怒りの声を上げ、数名の土鬼たちがガラン族騎兵に向かって突進する。
 だが、ガラン騎兵たちは土鬼と直接、刃を交えたりはしなかった。馬を自在に操って、土鬼から距離を取ると、さらに短弓を打ち込む。それも足を狙う。
 土鬼の歩みが落ちたところを囲んで突進し、馬上槍を投げる。
 疾駆する場所から投じられた槍は容易に土鬼の胸を貫いた。

 さらに、城砦の反対側からコーディスの率いる騎士隊も、柵周辺に集まる土鬼たちに襲いかかった。
 こちらは小細工などしない馬上突撃である。
 巨大な突撃槍を構え、土鬼の盾を正面から打ち砕き、馬蹄で踏みつぶした。すかさず片手半剣を引き抜き、土鬼の顔面を叩き潰す。全身鎧に命を預け、ただただ武器を振るう。

 騎士の鋼、騎兵の槍に挟まれた土鬼たちの前で、柵の歩兵たちが再び矢衾を揃える。
「突け!」
 守備隊長の叫びに揃えて穂先が輝き、土鬼たちは貫かれて倒れた。

 土鬼たちは半数を失い、荒野へ逃げ帰っていった。
 ガラン騎兵たちが送り狼になり、さらに数名を打ち倒した。

「死者7名、負傷者21名」
 城砦の守備隊長ボルスが、コーディスとザンダルに伝えた。
「土鬼百を迎え撃って、48を討った。誇れる数だ」
と、ザンダルは評価する。「素晴らしい指揮だった」
「7名の戦死者は珍しい数じゃない」と、ボルスは呟く。
「全部、槍歩兵だ。こいつらは補充が利く」
 だが、ボルスの表情に悲しみが混じる。
 たとえ、歩兵であっても、死ぬことは悲しい。
「分かっている」とコーディスが言う。
「彼らの家族は、全部、カスリーン様が面倒見てくださる」
「それをぜひ、今宵の宴にて兵士にお伝え下さい」
「分かっている。死傷者への見舞金は手厚くする」
 そこで、コーディスはザンダルを振り返り、うなずいた。
「兵士の忠誠に対して、カスリーン様は必ず答えられる」

 それもまた、ザンダルが過去の治世者から学んだ知識を伝えたもの。

(王たるには、兵士の忠誠が必要なのです)

 ザンダルは微かに会釈を返す以外に何もしなかった。

 数日後、公爵家の館に戻ったザンダルは、カスリーンに呼び出された。
「見るべきものは見たな」
 カスリーンの言葉は確認にすぎなかった。
「レ・ドーラに進軍する」
「はい」
 ザンダルの言葉も確認にすぎなかった。

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『歌の龍王』第四十二話です。
ついに、レ・ドーラでの土鬼との戦闘が始まります。

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