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2010年8月10日 (火)

歌の龍王【46】龍骨の野(8)

赤の黒剣

波乱の予感がする。
新たな何かが生まれ、世界に飛び出していく。

「歌の龍王」とエリシェ・アリオラは言った。
「あえて、カスリーン殿下にも申し上げます。我ら魔道師学院は、近い将来、歌の龍王なる者が復活し、世界に激変を与えるという予言を得ました」
「龍王?」 そういうカスリーンの声がかすれていた。
 古代に龍王たちが戦った龍の戦場、レ・ドーラに近いユパの民は、龍の恐ろしい伝説を山ほど聞いている。レ・ドーラの彼方、モーファットには風の龍が飛来しているし、昨今はファオンの野の火龍が境界を越えて中央平原に進出している。ただの火龍でさえ、城一つを簡単に焼き滅ぼせるという。北方ミスタクタイズ河に出現した霧の龍王はすでに数え切れぬ村を食い散らかした。そんな怪物がさらに復活すれば大騒ぎである。
「その龍王は、レ・ドーラにいるというのか?」
 それでも、質問を即座に返すのは、カスリーンの気丈さである。
「まだ何とも申せません」とエリシェ。「しかし、どうやら、ザンダルがモーファットで討ち果たした魔女は、その手がかりを抱えていたようにございます。レ・ドーラは龍骨の野。そして、カスリーン殿下がそれを越えて、モーファットまでの道を開くとなれば、いずれ、歌の龍王の手がかりを得るやもしれません。その時はぜひとも、我らにご一報をば願います」
「うむ、分かった」
「では、帰還の術式を行います故、鏡の間をお貸しください」

 妖精王国が衰退して久しい。すでに独立したユパ王国においても、それは同様であるが、どうしても変わらぬ城の様式のひとつが鏡の間である。
 古鏡の魔術は、鏡と鏡の間を転移する旅の魔法である。
 妖精王国の諸都市は、この魔術によって結ばれ、妖精騎士や古鏡座の魔道師が使者として鏡から現れ、消えてゆくために、城の最上階に鏡の間を作るのが慣例となっていた。鏡の間には、妖精騎士が造らせた魔法の鏡が備えられ、古鏡座の魔法陣が描かれている。
 ラグレッタ城砦も例外ではない。
「よい品、よい魔法陣だ」と、エリシェは褒めた。そのまま呪文の一声で、魔法陣に記憶させた魔力を起動させる。ザンダルはぞっとするほどの魔力が湧き上がるのを感じた。
 微かに、龍の遠吠えが聞こえた。魂を吹き飛ばしそうな恐怖を伴いながらも、まるで風が歌うような抑揚を含んだ声は、ザンダルには歌声にも聞こえた。
「聞こえたな」とエリシェ。
「あれが歌の龍王」とザンダル。

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『歌の龍王』第四十六話です。
 短めでも続きをかいていきたいと思っています。

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