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2010年8月16日 (月)

歌の龍王【47】龍骨の野(9)

緑の野槌

耳元にささやく者あり。
これもまた夢なりや?

「ザンダル、説明せよ」
 鏡の間から戻ってきたザンダルは、カスリーンに命じられた。
「御意」とザンダルは頭を垂れる。
「魔道師学院には、高位の幻視者がおりまする。その者は夢占いにて、未来の危機を幻視いたしました。『歌の龍王が復活し、世界を大きく変える』と」
「歌の龍王とは?」
「残念ながら、私のごとき青龍座の魔道師でも聞いたことがありませぬ。さきほどのエリシェ殿のご様子から見ても、学院でも正体を判じられぬ状況かと思います」
「推測も出来ぬか」
「先入観は危険でございます」とザンダルは前置きした。「その上であえて申し上げまするが、本来、歌は12とひとつの星座の内、八弦琴に属するものでございます。歌の公女イェロマーグのごとく、歌と予知を司る魔族もおります。
 されど、火龍と歌というのはどうにも不似合いにございます」
「龍王というのだから、名などだけでも残ってはいないのか?」
「龍王の名を持つ者は、この世に12と一騎とされております」
 この世界が12とひとつの星座に支配されるように、12とひとつは、世界の魔法的な構造を読み解く重要な数字である。円周に配置された12の星座と不動星を中心として自ら回転するひとつの星座「八弦琴」。
 叙事詩は言う。かの天空城が陥落した際、魔族に味方したのは、12と一騎の龍王であったという。

火龍ジーラ、火龍の王の王なり。今は北の山に眠るとされる。
剣の龍王シュティーゴ、武勲の龍王なり。
白の龍王バール・ゴラン、死の龍王なり。千年前、妖精騎士に討ち果たされたという。
双角の龍王ザウル、戦いの龍王なり。魔族の策謀によりレ・ドーラに果てたという。
魔龍大公ゴア、別名、雄叫びの龍王。200年前、人に転生したと言われている。
黒の龍王アロン・ザウルキン、影の都に潜む闇の龍王なり。
霧の龍王ファーロ・パキール、青ざめた鱗を持つ者なり。北の山で目覚め、冬の内に封じられたという。
青の龍王シュトルプ、レ・ドーラに果てると記されるのみ。
風の龍王ラコッド、多彩なる翼を持つ飛竜の王なり。西風の峰に住むと言う。
雷鳴の龍王ザイラス、天空の雲海に住むという伝説の龍王なり。

「数が足りぬな」とカスリーンが言う。「他にはないのか?」
「私としてはいささか不本意ではありますが」とザンダルは前置きする。
「異端結社「龍王教団」の聖典にして、おぞましき偽書「龍王教典」によれば、12と一騎の龍王はかくなる陣容なりとあります」

剣の龍王シュレーン・アロセス、夢魔の王リアンドールを打ち倒せし英雄の王。
白き龍翼ファロパント・ティオール、死を司る白き龍王なり。
龍の公女アリメディ・オレイア、世界の秩序を守る女神なり。
炎の守護者ゴーレイト・ザルナーン、すべてを焼き尽くす炎の王なり。
紫の光龍ソルーナ・デルヴィアン、暁の光たる預言者なり。マフの地底に封じられていると言う。
龍ナイラール・ランダロイ、狂気の声を伝える者なり。昨今の調査により、スイネの地下に封じられていることが明らかになっている。
宝玉の主タルシス・グルーデ、富と財貨の守護者なり。
混沌の金龍ブラン・ガイドレー、三つの首を持つ魔術の王なり。
海龍王ゼアン・グレイ、南海に眠る龍王なり。
森に吠える者ジャミアン・エンバー、森の賢者にて豊穣の守護者、真実を語る者なり。
月光の王エリシェ・ラクシャス、廃都に眠る者なり。
風の龍バーサル・メアゴール、天空の旅人にして、真実を伝える者なり。
龍の歌姫たるクラリア・エリマーグ、真理を歌う者なり。

 以上、12と一騎なり」

「龍の歌姫がおるではないか?」とカスリーンが指摘する。
「いいえ、これは魔族『歌の公女イェロマーグ』の異名に過ぎませぬ」とザンダル。「龍王教団は魔族教団でございます。龍に似た姿の魔族『龍の大公イヌーブ』を、龍と誤解して進行しているに過ぎませぬ。クラリア・エリマーグもまた同様」
 だが、ザンダルはぞっとせずにはおられなかった。

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『歌の龍王』第四十七話です。
 短めでも続きをかいていきたいと思っています。

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