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2011年10月25日 (火)

歌の龍王【61】黒鉄の篭手と火龍の姫(9)

赤の黒剣

波乱の予感がする。
新たな何かが生まれ、
世界に飛び立っていく。

「思い出すべき時が来たようだ」とフェムレンが言う。

 ザンダルの心が冷たく澄み渡った。
 呪文〈龍王の加護〉の力だけではない。
 おそらくは、この瞬間のために、ザンダルは「鍛えられて」いた。
 自らの記憶が「改竄」されていたことに対する衝撃はほぼ打ち消された。
 想定範囲内だ。
 これならば、耐えられる。

 だが……

「お前とカスリーン姫の関係は、難しい」
 フェムレンは淡々と言う。
「我は、師に過ぎませぬ」とザンダルは答える。「姫君はすでに我が掌より旅立たれ、王国の礎を築きつつあります」
「人としての関係だ」とフェムレン。「分かっておるな」
「私は、」とザンダルは言い淀んだ後、フェムレンの前に膝を折る。
「我は槍。いずれ、火龍の理に飲まれる身」
「我らは急がぬよ」とフェムレンは微笑む。おそらくは作られた笑い。
「だが、レ・ドーラを進めば、お前もカスリーンも決断を迫られよう」

 そう。いつか、歌の龍王と相まみえ……
 答えを出さねばならない。

「忘れるな、ザンダル。我らが敵は…」
「不死なる魔族」
「《策謀》には、長き時がかかる」
「次の世代、いえ、子孫すらも《策謀》のうちにありましょう」
「12とひとつの年が巡った後に後悔しても、取り返すことなどできぬが、綾織を見つめる幻視者でなき、我らはただ前に進むのみ」
「左様」とザンダルは引き取る。「我ら、青龍は槍であることに価値がある」

赤の戦車

形なき混沌が現実だ。
これに秩序という形を与えて、
未来を生み出すのが我らの使命なのだ。

「ザンダル、誰と話している?」
 女性の声が割り込んできた。
振り返れば、そこには、黒鉄の篭手をつけた火龍の姫、カスリーンがいる。背後には、忠実なる騎士コーディルと、もはや、腹心となったアナベル・ラズーリの姿がある。
 視線を走らせると、周囲にドレンダルはおろか、フェムレンの気配もない。

(すべては幻視の内への介入か)

 ザンダルは納得し、カスリーンの前に膝を折る。
「失礼。我ら魔道師にはよくない癖がありまして」
「また、何か幻視(み)えたのか?」
 カスリーンは目を逸らさない。
「はい」とザンダルは覚悟した。「奇妙なる啓示を得ました。
 姫君は、いずれ、火龍の魂と相まみえることとなりましょう」
 いずれ、詳細は語るが、今は、注意を喚起するきっかけをお与えしよう。
「何を今さら」とカスリーンは、黒鉄の篭手を掲げる。
「このレ・ドーラに踏み込んだ時から、覚悟していたこと。
 そして、あの日、お前は言ったではないか?
 『この黒鉄の篭手が、姫様を守ります』と」

 ええ、その通りです。火龍の姫よ。

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『歌の龍王』第61話です。
今回は、短めに。

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