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2011年11月14日 (月)

歌の龍王【63】棍棒王の南下(2)


赤の風虎

甘やかな言葉を弄する前に
行動あるべし。

 棍棒王ラ・ダルカの名前は、イクナーリ大平原においては恐怖を表す。
 巨大な土鬼は兵として、人の子10人分とも言われるが、その怪物たちを数百、あるいは、千の単位で集め、従わせることができれば、もはや、立ち向かえる人の子の国はない。
 中原の中央部が今も、半ば荒野のまま放置されているのは、かつての巨人王国への敬意というよりも、土鬼との戦争の不毛さゆえである。特に、妖精騎士たちが姿を消して以来、妖精王国はもはや、大平原へ領土を拡大する力を失いつつあった。
 妖精王国から独立したユパ王国にとって、大平原への拡大は悲願であったが、ルケリア河東岸への領土拡大が難航してきたのは、ひとえに、土鬼たちの中に時折、現れる棍棒王のような首魁の存在である。
 普段は氏族単位で暮らしているニ十、三十の土鬼たちを軍隊で追い払うことは可能だが、棍棒王を奉じて、略奪戦争のため、集まった数百、千の土鬼を蹴散らすことなどできない。

 棍棒王ラ・ダルカは、すでに齢50を数えていたが、巨人の末裔である土鬼としては、まだまだ壮年にすら達していない。土鬼としても、ひときわ、大きな巨体を、配下に引かせた巨大な荷車の上の玉座にゆだねていた。周囲には、頭を垂れた土鬼たちが集まっている。その数、千余り。
 大平原の南部、レ・ドーラへ向かう途中の丘の上である。
 見渡す限り、巨大な土鬼たちが大平原に座り込み、ラ・ダルカに向かって頭を垂れている。
「我らが守護神、スゴンより天啓が下った」
 ラ・ダルカは怒号を上げる。
「レ・ドーラに踏み込んだ人の子どもを踏み潰せ!
 勝手に、河を引き、我らの縄張りを引き裂こうとする虫けらどもを踏み潰せ!」
 傍らに据えられた巨大な棍棒を振り上げると、周囲に座っていた土鬼たちが立ち上がり、呼応する。
「踏み潰せ!」
「踏み潰せ!」
「踏み潰せ!」
 土鬼たちは野蛮な怒号を上げて、南へと歩き出す。

 棍棒王南下の報が入るとともに、カスリーンはラグレッタ城砦に集う兵士たちを集めて演説した。
「我が民よ。ついに決戦の時が来た!
 かの棍棒王ラ・ダルカの名の下に、大平原の土鬼、一千余が群れをなし、この城砦に向かって南下しつつある」
 すでに、状況は知れ渡っており、兵たちより驚きや恐怖の声は上がらなかった。すでに、土鬼の群れを何度も撃退し、兵士たちには自信がつきつつあった。
「かつて、ラ・ダルカの名前は恐怖そのものだった。
 だが、我々はこの日のために備えてきた。
 兵を鍛え、武器を備え、防御を固めた。
 運河には我らの水軍が浮かび、騎士団も騎兵隊も歩兵隊も砲兵隊も皆、精鋭となった!
 さらに、南方から、東方から、西方から、北方から、魔道師学院から、援軍が集った」
 カスリーンの声は城の庭全体に響き渡る。
 ラグレッタ城砦に集う軍団はユパ王国国内から集まったものだけではない。
 ストラガナ侯の呼びかけで、西方草原からガラン族の騎兵がやってきた。
 海王ルーニクは、南方王国から船乗りや荒くれの戦士たちを引き連れて帰ってきた。アナベル・ラズーリに従うゲグ教徒の一団もいる。モーファットからも、援軍が派遣されてきた。
 直接関係のないはずのマイオス王国や、妖精王国の大公領、メジナ、アラゾフ、スイネすら、傭兵部隊を送り込んできた。この機会に、レ・ドーラの権益へ食い込むため、カスリーンに恩を売ることに決めたのだ。
 魔道師学院からも、4人の魔道師が到着した。
 フェムレンと弟子たちは、すでに城砦の屋上に巨大な魔法陣を描いていた。青龍座に対応した十二と一重の魔法陣。
「この戦いに際して、畏れ多くも、ユパ王国国王陛下は、私にレ・ドーラ辺境伯の称号を賜った!」
 カスリーンは黒鉄の篭手を振り上げる。
 ザンダルは大きく頷く。
 これは、ラ・ダルカとの戦いに先立って得られた最大の勝利のひとつだ。
 レ・ドーラ辺境伯。
 王家としては、宿敵ラ・ダルカとの激戦に突入する剣の公爵家息女に対する最大限の支援のつもりであろう。ラ・ダルカが侵攻方向を変えた場合に備えて、王国軍の主力は、ルケリア河沿岸に待機しなくてはならない。援兵が少ない分を名義と軍資金で補ったのだ。
 カスリーンとザンダルにとって、それは想定範囲であり、ありがたいことだった。
 この称号を得ることで、カスリーンは大幅な自由裁量権を得る。多くの勢力からかき集めた混成部隊を指揮するためにも必要な地位だが、これで、レ・ドーラは正式にカスリーンの領地になった。王になる。かつて、カスリーンが望んだ目標にまた一歩近づいたのだ。
 だからこそ、カスリーンは意気揚々と立ち上がる。
「我らは勝つ」
 彼女は黒鉄の篭手を振り上げる。
 兵士たちが歓呼の声で答えた。

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『歌の龍王』第63話です。

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