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2022年1月31日 (月)

歌の龍王:【66】火龍召喚(2)

 

        *

 

 蒼白たる龍王

 

 浄化せよ。

 浄化せよ。

 浄化せよ。

 真理は一つなのだ。

 

        *

 

「千客万来だな」とカスリーンは笑った。

「青龍の塔の長殿が来てくれるとは力強い。

 そこな、魔女殿も協力してくれるそうな」

「いや、何年ぶりかな、ドレンダル姉上」と《龍牙のザーナンド》が魔女に向かって頭を下げる。

「お前に、姉呼ばわりされる義理などないわ」と、《赤い瞳の巫女》が顔をそむける。「もはや、我らは道を違えて久しい」

「そう」とザーナンドが言う。「道を違えて久しき我らが、この時の分岐点にて再び、相まみえるとは運命のいたずらか。いや、これもまた《策謀》の一部か?」

「さてさて」

 《策謀》とは、魔族が仕掛ける遠大かつ複雑な陰謀のこと。魔族たちは次なる時代に向け、復活のために暗躍している。

 

「これを千載一遇の好機と見る者もおる」とザーナンドは続けた。「魔族に与し、人の子を辞めた裏切り者を処分する好機だと」

「ここで?」とドレンダルが微笑みながら、挑発する。

「お待ち下さい」とザンダルが分け入る。「確かに好機なれど、今は不適切でしょう」

「まあ、戯言だ」とザーナンドが流す。「龍殺しの魔族とやらを見学できる、希少な機会だ。それに姉上の顔も見れた。兄弟喧嘩で迷惑をかけるわけにもいかぬ」

 青龍の塔の長は、カスリーンを振り返り、頭を下げ、鉄の公女は笑い返す。

「魔道師でも、兄弟喧嘩をするのだな。ザンダルやフェムレンを見ていると、家族の絆など感じさせぬ朴念仁ばかりかと思っておった。

 ザンダルとは、我が幼少の頃よりの長い付き合いだというのに、家族はおろか、師匠の話すらしない」

「分かりました。後ほど、そのあたりをご説明いたします」

「頼む」

 

 ザンダルはこういう話が苦手だった。

 家族など関係ない。学院に入って二十年以上、家族との縁は切れ果てた。

 師匠ももはやこの世にはいない。

 その件は思い出したくないし、カスリーンの教育には役立たない。

 こういう時、魂も人でなく、龍になれればいいと思う。

 

「魂まで、龍に捧げるというなら、こちら側にくればよい」

 ドレンダルがザンダルの気持ちを見透かすように言う。こちら側。そう、人の子を辞めて、魔族に近い存在となればよい。それはそれでそそるものだ。

「それだけは同意しよう。楽になるぞ」と、エリシェ・アリオラが悪意一杯の微笑みを向けてくる。「何しろ、我らが仕える魔族という存在は、もはや、変わることが出来ぬ。完成された邪悪な存在だ。変化もしないし、死にもしない。人の子の気まぐれや感情に左右もされない。その行動は信頼できる。ある意味でな」

 

 そう、魔族はもはや変わらない。未来永劫に。

 だからこそ、彼らは救われない。

 もはや主体たりえない、というのが学院の教える結論であるが、その反面、世界の仕組みや物理法則と変わらぬ何かだ。

 

 それを信仰し、自らの名前を捧げた彼女は、その主同様に、邪悪な怪物だ。

 

「さて、じゃれ合いは終わりだ」とエリシェが切って捨てる。

「ザンダルよ、その杖を掲げ、かの名前を呼べ。

 あの邪悪に、歌の龍王の名前を問うのだ」

 

 ザンダルはうながされるままに杖を掲げた。

「今こそ、来たれ!

 そして、我が問いに答えよ、赤き瞳の侯爵スゴンよ!」

 

 そして、彼方にて、龍殺しの魔族が雄叫びを上げた。

 また、封印の扉が1枚開いた。

 

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