歌の龍王:【66】火龍召喚(2)
*
蒼白たる龍王
浄化せよ。
浄化せよ。
浄化せよ。
真理は一つなのだ。
*
「千客万来だな」とカスリーンは笑った。
「青龍の塔の長殿が来てくれるとは力強い。
そこな、魔女殿も協力してくれるそうな」
「いや、何年ぶりかな、ドレンダル姉上」と《龍牙のザーナンド》が魔女に向かって頭を下げる。
「お前に、姉呼ばわりされる義理などないわ」と、《赤い瞳の巫女》が顔をそむける。「もはや、我らは道を違えて久しい」
「そう」とザーナンドが言う。「道を違えて久しき我らが、この時の分岐点にて再び、相まみえるとは運命のいたずらか。いや、これもまた《策謀》の一部か?」
「さてさて」
《策謀》とは、魔族が仕掛ける遠大かつ複雑な陰謀のこと。魔族たちは次なる時代に向け、復活のために暗躍している。
「これを千載一遇の好機と見る者もおる」とザーナンドは続けた。「魔族に与し、人の子を辞めた裏切り者を処分する好機だと」
「ここで?」とドレンダルが微笑みながら、挑発する。
「お待ち下さい」とザンダルが分け入る。「確かに好機なれど、今は不適切でしょう」
「まあ、戯言だ」とザーナンドが流す。「龍殺しの魔族とやらを見学できる、希少な機会だ。それに姉上の顔も見れた。兄弟喧嘩で迷惑をかけるわけにもいかぬ」
青龍の塔の長は、カスリーンを振り返り、頭を下げ、鉄の公女は笑い返す。
「魔道師でも、兄弟喧嘩をするのだな。ザンダルやフェムレンを見ていると、家族の絆など感じさせぬ朴念仁ばかりかと思っておった。
ザンダルとは、我が幼少の頃よりの長い付き合いだというのに、家族はおろか、師匠の話すらしない」
「分かりました。後ほど、そのあたりをご説明いたします」
「頼む」
ザンダルはこういう話が苦手だった。
家族など関係ない。学院に入って二十年以上、家族との縁は切れ果てた。
師匠ももはやこの世にはいない。
その件は思い出したくないし、カスリーンの教育には役立たない。
こういう時、魂も人でなく、龍になれればいいと思う。
「魂まで、龍に捧げるというなら、こちら側にくればよい」
ドレンダルがザンダルの気持ちを見透かすように言う。こちら側。そう、人の子を辞めて、魔族に近い存在となればよい。それはそれでそそるものだ。
「それだけは同意しよう。楽になるぞ」と、エリシェ・アリオラが悪意一杯の微笑みを向けてくる。「何しろ、我らが仕える魔族という存在は、もはや、変わることが出来ぬ。完成された邪悪な存在だ。変化もしないし、死にもしない。人の子の気まぐれや感情に左右もされない。その行動は信頼できる。ある意味でな」
そう、魔族はもはや変わらない。未来永劫に。
だからこそ、彼らは救われない。
もはや主体たりえない、というのが学院の教える結論であるが、その反面、世界の仕組みや物理法則と変わらぬ何かだ。
それを信仰し、自らの名前を捧げた彼女は、その主同様に、邪悪な怪物だ。
「さて、じゃれ合いは終わりだ」とエリシェが切って捨てる。
「ザンダルよ、その杖を掲げ、かの名前を呼べ。
あの邪悪に、歌の龍王の名前を問うのだ」
ザンダルはうながされるままに杖を掲げた。
「今こそ、来たれ!
そして、我が問いに答えよ、赤き瞳の侯爵スゴンよ!」
そして、彼方にて、龍殺しの魔族が雄叫びを上げた。
また、封印の扉が1枚開いた。
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