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2022年3月11日 (金)

歌の龍王【71】火龍召喚(7)

 

        *

 

黒の古鏡

 

 汝の為すことはすべて汝に返る。

 それを忘れるな。

 

        *

 

 言葉は力だ。

 ザンダルは魔道師学院でそう学んだ。

 思いがけない言葉が、魔法の力を持って刺さってくることがある。

 たとえ、それを発した人物が魔力を持っていなくても、言葉には力が宿る。

「古めかしい言い方をするなら、言霊(ことだま)、言葉の霊力だ」

 教導担当の魔道師が言った言葉だ。

 その時は、ぴんと来なかったが、魔道師となり、幻視の力を駆使できるようになったら、言葉の意味が腑に落ちるようになった。

 この時のアル・ストラガナ候の言葉もそうだ。

 

『力ある玉座を見出した時』

 

 言葉によって、幻視が起動する。

 見える、いや、見えた。

 

 広大な谷間で、火龍が争い合う姿。

 それはレ・ドーラの過去だ。

 魔族は《策謀》によって、火龍同士を仲違いさせ、この地で火龍同士の最終決戦を勃発させた。火龍たちはまさにこの地で殺し合い、生き残った者も傷ついているところに、魔族たちが包囲戦を挑んだ。

 世界の槍たる最強の殺戮者である火龍たちを殺すために、あらゆる手段が用いられた。

 三つ首の魔龍ガイドレーを筆頭とする対火龍戦闘用の魔獣たちに加え、《赤い目の侯爵スゴン》のように、龍殺しに特化した魔族さえ生み出された。

 

 そして、そこでザンダルは気づいた。

 

 なぜ、ここ、レ・ドーラが戦場に選ばれたのか?

 火龍は、飛翔する力を持ち、その戦いは立体的である。かような荒野を戦場に選んだ理由がなにかあるはずだ。

 

 幻視。

 

ザンダルは、まるで、火龍の一頭になったかのように、空からレ・ドーラを見下ろす。

古き世代の龍王たちがレ・ドーラの一角に集まっている。

 

鋭い1本角を頭部に持つのは、剣の龍王シュティーゴ。この戦いの後、魔龍ガイドレーに殺され、後に、人の子に転生して復讐を果たした、と伝えられる。

漆黒の鱗がきらめくのは、黒龍王アロン・ザウルキン。現在まで生き延び、影の都に隠れ住むと言われている。

霧をまとう巨体は、霧の龍王ファーロ・パキール。青ざめた鱗と黄金の瞳を持つ。

 

 それらの背後、高い丘に寝そべるのが、歌の龍王マーシュグラだ。七色に輝く鮮やかな鱗を持ち、薄紅の翅(はね)は、透き通った光の板のように見える。

 他の龍王たちは、彼女を敬するように、一歩離れ、顔を彼女に向けている。

 

 そう、まるで宮廷で王に向かうように。

 そうか、あれこそが玉座なのだ!

 

 そう思った瞬間に、マーシュグラが顔を上げ、ザンダルを見た。

 視線が魂を射抜き、一瞬、回避が遅れた。

 放たれたのは、歌だ。

 

 そう、歌だ。火龍の声に乗せ、破壊と殺戮の意志が歌になって放たれた。

 

 ザンダルの意識が途絶えた。

 

        *

 

「ザンダル! 大丈夫か?」

 カスリーンの声がした。

 体を誰かが支えていてくれた。

 力強い腕は海王ルーニクのものだ。

 

「幻視(み)たのだな」と、エリシェ・アリオラが確認する。

「何が幻視(み)えた?」

「玉座の地」とザンダルは答える。

「レ・ドーラの丘にして、歌の龍王マーシュグラがこだわった場所。

 それを奪い合い、レ・ドーラの戦いは始まりました」

「それはいかなるもの」

「火龍の歌が、力を持つ場所でございます。

 歌の龍王がそこで歌えば、その力を具現化できるのです」

「なるほど」とエリシェがつぶやく。

「龍の歌姫たるクラリア・エリマーグ、真理を歌う者なり」

 

 それは魔族たちの生み出したる邪教の教え、龍王教典の一節。

 

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